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第六十一回 酒鬼

 「酒鬼」――日本の大修館の『中日大辞典』を引いてみますと、「酒飲み、のんべえ、のんだくれ、アル中」などの訳語が並んでいました。今回のお話しは「酒鬼」といっても酔っ払いの話ではありません。「酒鬼」というブランドの白酒(中国の焼酎の総称)の特級酒の話です。

 「酒鬼」は、中国中部湖南省の白酒で、特級酒としては新顔、ここ二十年ほど、めきめき売上げを伸ばしてきたのですが、今年(2013年)に入って業績が急激に悪化しました。去年上半期の純益は二億六千万元だったの、今年上半期の純益はなんと三千万元になってしまったそうです。


スーパーの酒のコーナーで品定めをする筆者  

 一体なにが起こったのでしょうか。こうした業績不振は、どうやら「酒鬼」だけではなく、白酒の特級酒を造っている蔵元のほとんどを襲っているようです。白酒の王様といわれる茅台酒、中日国交正常化の宴会で周恩来首相と田中角栄首相が乾杯するときに使った名酒茅台酒の蔵元でさえ、株が暴落としたと新聞は伝えていました。

 こうした白酒の特級酒の会社の業績不振は去年の暮れあたりから、政府が公費の浪費、とりわけ公費を使った飲食や旅行、贈り物などを厳しく規制していることと関係があるようです。なにしろ、高級酒は宴会や贈り物の「必需品」の王座を占めてきたのですから……政府がこうした規制を緩るめる気配はまったくみられません。高級酒の蔵元の冬はまだまだ続くことでしょう。

 


畏友李健一君(本文参照)が愛飲する北京の地酒「紅星二鍋頭酒」。
注意!瓶にアルコール度五十六度と明記されている。

 一方、白酒でも大衆酒の売れ行きは上々のようです。中国国際放送局日本語部の同僚で、毎晩白酒の大衆酒の晩酌を欠かさない李健一さんの話によると大衆酒は大瓶、中瓶、小瓶から居酒屋の店頭でかめからひしゃくで計り売りするものまでいろいろ、アルコール度も45度から56度までいろいろ、北京の地酒「紅星」や「京都」など。李さんが晩酌を傾ける大衆酒の値段は高級酒の十分の一から二十分の一。この夏、李さんは「百年牛欄山二鍋頭酒」という味よし。値は午頃の北京の地酒を発見したそうです。日本から飲み仲間が来たら、これで歓迎するんだと張り切っていました。李さんは、白酒の大衆酒の前途には自信満満のようでした。

 しかし、この李健一さんにもいくらか心配があるようです。���者たちの白酒離れ、昨今の若者たちはワイン、ウィスキー、ビールといった洋酒に眼が向いているというのです。この秋にも、北京でドイツ・ミュンヘンビール祭が賑やかに開かれ、ドイツからはビールだけでなく歌手や楽団もやってきて、連日北京の若者で賑わっていました。わたしの家の近くの小さなコンビニにドイツの缶ビールがずらりと並んでいたのには、ちょっと驚きました。

 北京は、いつでも、どこでも、いろいろな国の、いろいろなお酒が飲める国際都市となりましたが、わたしは体調を崩して禁酒中。ときたまビールをちょっと舐めるだけ、まことに情けない話です。

作者のプロフィール
 李順然、中国国際放送局(北京放送)元副編集長。著書に『わたしの北京風物詩』『中国 人、文字、暮らし』『日本・第三の開国』(いずれも東京・東方書店)などがある。
紹介した内容

第六十回 漢字の危機
第五十九回 「わたしの夢」さし絵
第五十八回 赤子の心
第五十七回 菊の花と人の顔
第五十六回 馮小剛・莫言
第五十五回 国慶節・天安門・私
第五十四回 エジソンと携帯電話
第五十三回 仲秋節
第五十二回 秋到来
第五十一回 同姓同名
第五十回 王府の今昔
第四十九回 光盤行動・低配生活
第四十八回 -禿三話-
第四十七回 交通マナー雑議
第四十六回 苦熱・溽暑
第四十五回 「雑家」の「雑文」
第四十四回 思い出のラジオ番組
第四十三回 大学受験シーズン
第四十二回 五月の色
第四十一回 ―法源寺・鑑真和上―
第四十回 北京の若葉
第三十九回 煙巻褲(イエンヂュエンクウ)
第三十八回 踏青
第三十七回 シルクロードの旅点描
第三十六回 シルクロード点描②
第三十五回 シルクロード点描①
第三十四回 春の装い
第三十三回 春を探ねて
第三十二回 擲球之戯
第三十一回 春節と餃子

第三十回 「武」という漢字
第二十九回 緑の引っ越し
第二十八回 北京っ子と風邪
第二十七回 橄欖球・水泳・羽毛球
第二十六回 足球・篮球・乒乓球
第二十五回 九九消寒図
第二十四回 北京の冬
第二十三回 衣がえ
第二十二回 落ち葉
第二十一回 老舎と菊
第二十回 中日共同世論調査をみて②
第十九回 中日共同世論調査をみて①
第十八回 天高気爽③
第十七回 天高気爽②
第十六回 秋高気爽①
第十五回 納涼④
第十四回 納涼③
第十三回 納涼②
第十二回 納涼①
第十一回 男はつらいよ
第十回 苦熱
第九回 胡主席の卓球 温首相の野球
第八回 麦の秋
第七回 柘榴花・紅一点
第六回 漢字と笑顔
第五回 五月の香り
第四回 北京の古刹法源寺
第三回 井上ひさしさん
第二回 SMAPと中国語
第一回 春天来了

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