北京時間夜9時20分のフラッシュなしの野外撮影――これができたのは北京から新疆ウイグル自治区の首府ウルムチ経由でカシュガルに、西へ西へと太陽との「駆けっこ」で飛ぶことなんと3700キロ、この天文学的な距離が生んだ時差があってのことなのです。夕陽に照らされて車で宿に向かう途中、つくづく中国は広いなあ、シルクロードは長いなあと思いました。
カシュガルに着いた翌日、車に揺られて二時間ほど、棉畠のも広がるアポロ村を訪れました。ここで、ウイグル族のおとしよりアンサングミンさんと親しくなりました。上の写真の左側がアンサングミンさん、右側は筆者、わたしが抱いているのはアンサングミンさんのお孫さんパデイちゃんです。一家は棉づくりをしているそうですが、アンサングミンさんはもう畠には出ず家でお孫さんの世話をしながら三頭ほどの羊を養っているとのこと、「小遣いかせぎの遊びさ」と笑っていました。
アンサングミンさんが六十八歳だと知ったわたしが「わたしは六十五歳、北京から来た身ですよ」と言うと、アンサングミンさんは大きな声で「兄弟!兄弟!今夜はわたしの家で飯を食っていけ。羊をつぶすから……」とわたしの手を握って放しません。断るのに汗を流し、声がすっかりかれてしまったのを覚えています。
アンサングミンさんは、孫の手をひいて村道まで送ってくれ、いつまでも手を振ってくれていました。民族とか、宗教とか、言語とか……は、人の心と心の触れ合いを阻めないといことを教えてくれた貴重な一期一会でした。
カシュガルから首府ウルムチに帰った日の夜ここの友人たちが食事に招いてくれました。前菜は名も知らないこの地方の野菜、果物と羊の肉のサラダ、野菜を選んで食べていると、突然、拍手が起きました。誰か挨拶するのかと思ったら、入口からカートが入ってきたのです。カートには頭に赤い布をかぶせた新疆名物の羊の丸焼がどっかりと座っていました。
「どうぞ、どうぞ」という主人側のことばに誘われて丸焼の前に行くと、立派なナイフが並べられています。ロースの部分を二枚切って小皿に取りテーブルにもどり、口に入れました。ホカホカの肉は硬からず、柔らかからず、ウイグル独特の調味料がよくきいて最高。すぐにお代わり、今度はふとももの部分を二枚取って席にもどりました。
一生といっても残り少ないのですが、忘れられない味でした。上に掲げた写真、ウイグル族の帽子をかぶって羊の丸焼の前でご満悦の筆者をみてください!(続)
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