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第五十四回 エジソンと携帯電話

 中国の大学の全国統一試験は、もともと七月の上旬でしたが、七月は北京をはじめ、ほぼ全国でいちばん暑い月、これでは受験生がかわいそうだと、数年前からいくらか涼しい六月上旬となりました。今年(2013年)は六月の七日と八日でした。北京はいくらか雨���降りましたが、最高気温は23度ぐらいと凌ぎやすく、受験生も親御さんたちもよろこんでいました。

 一日目の試験には国語がありましたが、その作文の試験問題、北京地区の問題はエジソンと携帯電話に絡む問題で、ちょっと評判になりました。このテーマが生まれたのは、一月ほど前の五月十五日にさかのぼります。この日、北京大学ではノーベル物理学賞受賞の楊振寧教授とノーベル文学賞受賞の作家の莫言さんの「科学と文学の対話」というテーマの対談がおこなわれました。席上、楊振寧さんが「科学は推測であり、文学は幻想である」と言うと、莫言さんは「科学が注目するのは物質の原理であり、文学が注目するのは人類の感情である」と指摘し、「作家が描く美しい花は、植物学者からみれば植物の生殖器なのだ」という現代中国の代表的な作家魯迅のことばを披露しました。


ノベール物理学賞受賞者楊振寧氏


ノーベル文学賞受賞者莫言氏

 楊振寧教授はまた、以前からよく考えることだが、もしエジソンが二十一世紀の世界で一週間暮らしたとしたら、とても不思議に思うのはなんでしょうかと莫言さんに問いかける一幕もありました。この問いに莫言さんはとても興味を感じたようで「携帯電話でしょう」と答えました。楊振寧教授は大きくうなずき「わたしもそう思いますよ。ポケットから小さな携帯を取りだしてアメリカ人と話し始める。驚くでしょうね」と言いました。

 さて、本題にもどりましょう。今年の大学入試の作文の試験問題は、この二人の会話をそっくりそのまま試験問題にしたようなもので、次のように記されていました。

 『科学者:もしエジソンが二十一世紀の世界で一週間暮らしたら、一番驚くのはなんだろうか?

 作家:携帯電話じゃないだろうか?

 科学者:賛成だね。携帯電話は情報化時代のシンボルだよ。まったく手の平の上のコンピューターだ。その豊富な効能にエジソンもびっくりするだろう。

 作家:携帯電話がこんなに幅広く応用されていることは、人間の交流方式、思想感情、観念意識に深い影響をあたえている。これは、エジソンも考えが及ばないことだろう。

 上述の科学者と作家の携帯電話をめぐる異なった見方を君はどう考え、どう思うか?

 題、角度、文体(詩歌を除く)は自由、八百字以上の文章にもとめよ。』

 この作文の問題、大方の専門家のあいだでは評判が良かったようです。素人のわたしも、理科系志望の受験生にも、文科系志望の受験生にも、それなりに受け入れられる着眼点のいい出題だなと思いました。ちなみに、中国語でエジソンは「愛迪生」、携帯電話は「手机」、この問題のタイトルは「愛迪生与手机」となります。

作者のプロフィール

 李順然、中国国際放送局(北京放送)元副編集長。著書に『わたしの北京風���詩』『中国 人、文字、暮らし』『日本・第三の開国』(いずれも東京・東方書店)などがある。

紹介した内容

第五十三回 仲秋節
第五十二回 秋到来
第五十一回 同姓同名
第五十回 王府の今昔
第四十九回 光盤行動・低配生活
第四十八回 -禿三話-
第四十七回 交通マナー雑議
第四十六回 苦熱・溽暑
第四十五回 「雑家」の「雑文」
第四十四回 思い出のラジオ番組
第四十三回 大学受験シーズン
第四十二回 五月の色
第四十一回 ―法源寺・鑑真和上―
第四十回 北京の若葉
第三十九回 煙巻褲(イエンヂュエンクウ)
第三十八回 踏青
第三十七回 シルクロードの旅点描
第三十六回 シルクロード点描②
第三十五回 シルクロード点描①
第三十四回 春の装い
第三十三回 春を探ねて
第三十二回 擲球之戯
第三十一回 春節と餃子

第三十回 「武」という漢字
第二十九回 緑の引っ越し
第二十八回 北京っ子と風邪
第二十七回 橄欖球・水泳・羽毛球
第二十六回 足球・篮球・乒乓球
第二十五回 九九消寒図
第二十四回 北京の冬
第二十三回 衣がえ
第二十二回 落ち葉
第二十一回 老舎と菊
第二十回 中日共同世論調査をみて②
第十九回 中日共同世論調査をみて①
第十八回 天高気爽③
第十七回 天高気爽②
第十六回 秋高気爽①
第十五回 納涼④
第十四回 納涼③
第十三回 納涼②
第十二回 納涼①
第十一回 男はつらいよ
第十回 苦熱
第九回 胡主席の卓球 温首相の野球
第八回 麦の秋
第七回 柘榴花・紅一点
第六回 漢字と笑顔
第五回 五月の香り
第四回 北京の古刹法源寺
第三回 井上ひさしさん
第二回 SMAPと中国語
第一回 春���来了

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