王立達さんという中国の語言学者は「現代中国語のなかの日本語からの借用語」というタイトルの論文で、こうした日本生まれの漢語を紹介しています。政治の面の「民主・政党・同盟・政策・事変……」、経済の面の「投資・企業・広告・景気・信託……」、哲学の面の「哲学・理念・論理・理性・意識形態……」、文化の面の「交響楽・出版・博覧会・劇場・漫画……」などなどを挙げていました。
王立達さんの論文は1958年に「中国語文」という雑誌に発表されたもので、それからの半世紀、とりわけ中国で改革開放の政策が実行されてからの漢字を使った「日本製」の漢語の中国への「逆輸出」が目立っています。
こうした漢字を媒体とした中日交流は一方的なものではないようです。過日の新聞(朝日新聞2011.11.12)の第一面の「対口支援」ということばに目が止まりました。これは、2008年の中国の四川汶川大地震のとき、中国の新聞やテレビでよく使われたことばで、ある自治体が被災地のある自治体を対象に多角的な支援をすることで、日本の関西の2府5県が東北の被災3県を支援している記事のなかですんなりと使われていました。中国語の「対口」の意味まで説明していたので、きっと中国語からの借用語だろうと思います。
では、漢字と笑顔をめぐる「東鱗西爪」(わたしがこのコーナーにつけた中国名で、大修館の「中日大辞典」には『断片的でまとまりのない文章』というわけがついている)この辺で筆を擱くことにしましょう。いずれにしろ、漢字と笑顔による交流に期待しています。下手なスローガンよりずと期待しています。
追記:中国の学者も日本の学者も漢字のルーツを甲骨文字だとしています。甲骨文字は、中国古代王朝殷代(約BC1600~BC1046年)に亀の甲や牛の骨に彫んだ文字で、左の写真の甲骨文字は「三年不言」(三年の不言実行)のスローガンで殷の復興に功績のあった第22代王武丁の時代の歴史紀事を刻った牛の肩甲骨です。
大切なことを書き忘れていました。現在、漢字を常用文字として使っているのは世界広しといえども中国と日本だけなのです。これは、われわれの祖先が二千年にわたって智恵を絞って培かってきた中国と日本共有のかけがえのない財産なのです。漢字はどうなるかと危ぶまれたコンピューター時代も生き抜き発展してきた漢字が、これからの二千年にも力強い生命力を発揮して民衆の暮らしをさらに豊なものにするのをバックアップしてくれるよう願っています。
もうひとこと。日中友好協会の新聞『日本と中国』によると、今年(2012年)日本で「漢字の起源展」が開かれるそうです。期待しています。
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