第三十二回 擲球之戯
北海公園のなかにある清朝料理の老舗「仿膳」(本文参照)のウェートレスと筆者。ウェートレスは満州族の服を着ている。
北京の若ものの冬の楽しみにアイススケートがあります。冬の訪れとともに、夏のあいだはボートが浮かんでいた市の中心の北海公園や西郊外の頤和園などの池に厚い氷がはり、天然のスケートリンクとなって、若ものの明るい声があふれるのです。北国北京の長い冬のなかでも、二月のスケートリンクがいちばん活気にあふれているようです。学校の冬休み、春節(旧正月)の七日間の連休……といったこともあるでしょうが、十二月から凍りはじめた池も、二月の終わりには表面が溶け始めます。そこで二月の声を聞くと若ものたちは一分一秒を惜しむかのように、今年最後のスケートを楽しむのです。
手をとりあってすべる若いカップル、二組に分かれてアイスホッケーに興じる冬休みの学生、氷上の鬼ごっこに熱中する女学生、お父さん、お母さんに手をひかれ小さなスケート靴でたくみにすべる小さいな子、手製ソリをゆっくりすべらせて楽しむお年寄り……スケートリンクはまさに百花斎放です。
中国のアイススケートについては、今から七百年ほど昔の元(1271~1368年)の時代にかかれた『宋史』という本に「氷嬉」という文字が記されています。文字通り氷の上で嬉(よろこ)ぶこの氷嬉は中国最後の封建王朝清朝のころには、都北京でもとても盛んになったようです。
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