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第十九回

―中日共同世論調査をみて①-

 ちょっと固い話です。わたしの手もとにあるのは、今年の上半年、中日双方でおこなった「中日共同世論調査」についての記者会見の様子を伝える新聞の記事です。

 調査の結果を示す数字は、かなりきびしいものでした。相手国にたいして、良くない感情を持つ理由として中国側は「過去に戦争をしたから」が最多と感じていました。

 たしかに、「過去に戦争をしたから」は、中国人の感情を傷つけている理由でしょうが、現在の問題はあの戦争自身にだけあるのではないく、あの戦争を反省せず、それを美化・礼賛し、はてはふたたびあの道に足を踏みだそうという動きまで現われていることにあるのではないでしょうか。中国人が日本に良くない感情を持つ原因は、ここにあるのだと思います。

 中日友好協会の会長をしていた孫平化さんは、日本側のこうした動きをとても心配していました。孫さんは日本を訪れたとき、「こうした動きは日本をアジアの孤児にしてしまうだろう。長いあいだ中日友好の仕事をしてきたわたしは、日本がアジアの孤児になるのを眼にしたくない」と語っていましたが、半世紀も中日友好の仕事をしてきたわたしも、まったく同感です。


シュミットさん

 ここまで書いてきて、ふと頭に浮かんだのは、過去読んでたいへん感銘を受けたある人のことばです。中国人でもなく、日本人でもない、あるドイツ人のことばです。1974年から1982年まで西ドイツの首相を務めたシュミットさんが九十一歳の老躯を駆って車イスでベルリン日独センターの25周年記念(2010年)の式典に出席し、講演したさいに述べたことばです。訪日歴50回という知日派のシュミットさんは日独両国にとって近隣諸国との友好関係が持つ重要性を訴えて、次のように述べました。

 「20世紀前半に起きた恐ろしい出来事を、われわれ両国が隣国より早く忘れることは許されない。このことを認識することは、きわめて大切である」

 シュミットさんの話を新聞で読みながら、わたしはいろいろ考えました。

 ドイツは深刻に、誠実にあの戦争を反省し、謝罪した。とりわけ、大きな被害を与えた近隣諸国には誠意を尽くした謝罪を繰り返した。いまも、この協力は続けられている。

 こうして、ドイツはヨーロッパの諸国の信頼を贏ち得た。ドイツがEUの中核として力強い役割を果たしているのは、ドイツ人一人一人がシュミットさんと同じような認識を持とうと、片時なりとも忘れることなく、努力を続けて���る結果だろう。ドイツはヨーロッパの孤児にはならなかったのである。シュミットさんの話は、日本に寄せる心のこもった忠言だと思う。

作者のプロフィール

 李順然、中国国際放送局(北京放送)元副編集長。著書に『わたしの北京風物詩』『中国 人、文字、暮らし』『日本・第三の開国』(いずれも東京・東方書店)などがある。

紹介した内容

☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十八回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十七回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十六回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十五回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十四回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十三回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十二回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十一回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第十回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第九回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第八回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第七回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第六回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第五回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第四回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第三回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第二回
☆ 話・はなし・噺・HANASHI~第一回

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