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第三十六回

シルクロード点描②

 カシュガルなど西のシルクロードだけでなく、首府ウルムチを足場に東のシルクロードにも足を伸ばしてみました。ウルムチから高速道路を東に140キロ、ブドウの特産地トルファンを訪れました。

 トルファンで友だちになったウイグル族の農民アリムニアさんの一家です。庭のブドウ棚の下で一家をあげて太陽のように明るい笑顔とリズミカルな歌と踊り、そしてカラフルな服装で行きずりのわたしを迎えてくれました。化学肥料も農薬の知らないもぎたてのブドウをご馳走になりました。アリムニアさんのブドウ畠で取れたものです。

 写真のまんなかの小女は、アリムニアさんの長女フェアちゃんです。六歳、歌も踊りをうもく、たいへん活物でおしゃれ、写真を撮るといったら、急いで家にて両手に緑と白の指輪を嵌めて戻ってきました。そして、チョコンと座って、両手の指輪をカメラの方に差しだしました。

 ウイグル族は、西でも東でも、男も女も、大人も子供も、みんなおしゃれ、おしゃれな笑顔、おしゃれな歌声、おしゃれな衣裳……。その素朴な心と姿で、旅人をごくごく自然に、暖かく迎えてくれました。

 夏の中国ではいちばん暑いといわれるトルファン(六月から八月の平均気温30度、最高気温49点6度)、このトルファンでも暑いことで知られる火焔山に行ってみました。

 そうです。あの『西遊記』にも記されている火焔山です。で、経文を求めてインドに向う三蔵法師が燃えあがる焔と熱風に道をさえぎられた所、孫悟空は芭蕉扇でこの火を消し止めて手柄を立てた所です。

 わたしたちは、ジープ三台に分乗して火焔山に向いました。どのジープにも西瓜が十個ぐらい積まれていました。道中の飲用水の「代替品」だそうです。

 車で東に向って二時間ほど、行けども行けども砂漠、前方に赤い紅砂岩の山脈(やまなみ)が姿を見せます。史書に赤石山と記されている火焔山です。上の写真にも写されている山脈の一本一本の溝が、強い陽を浴びると燃えあがる焔のように、一本一本赤く染まって輝くのです。

 一行は車を降りて砂漠に車座になって座り、火焔山を眺めながら西瓜を割って一つ一つ口に運こびました。まさに、甘露、甘露のひとときでした。

 その昔、「火州」と呼ばれた暑いトルファンで二泊、ウルムチに帰る途中でちょっと涼んでいきましょうと、避暑地で知られる天池に立ち寄りました。ここは海抜1900メートル、四方をえぞ松の茂る緑の山口に囲まれ、遠くには海抜5445メートルのボコダ峰を望む汚れを寄せてけぬ澄んだ水を湛える天池と呼ばれる湖です。

 前日までは、ずっと薄い白糸綿の半袖のポロシャツでしたが、それを黒の厚目のポロシャツに着替え、その上にジャンパーを羽織っても熱くない、心よい涼しさを感じたのを覚えています。

 昔から、よく「オアシス、オアシス」と口にしてきましたが、「箱庭」ではない本物のオアシスにしばし身を置いて感無量でした。

 (続)

作者のプロフィール
 李順然、中国国際放送局(北京放送)元副編集長。著書に『わたしの北京風物詩』『中国 人、文字、暮らし』『日本・第三の開国』(いずれも東京・東方書店)などがある。
紹介した内容

第三十七回 シルクロードの旅点描
第三十六回 シルクロード点描②
第三十五回 シルクロード点描①
第三十四回 春の装い
第三十三回 春を探ねて
第三十二回 擲球之戯
第三十一回 春節と餃子

第十九回 中日共同世論調査をみて①
第十八回 天高気爽③
第十七回 天高気爽②
第十六回 秋高気爽①
第十五回 納涼④
第十四回 納涼③
第十三回 納涼②
第十二回 納涼①
第十一回 男はつらいよ
第十回 苦熱
第九回 胡主席の卓球 温首相の野球
第八回 麦の秋
第七回 柘榴花・紅一点
第六回 漢字と笑顔
第五回 五月の香り
第四回 北京の古刹法源寺
第三回 井上ひさしさん
第二回 SMAPと中国語
第一回 春天来了

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