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話・はなし・噺・HANASHI 第五十一回 

―同姓同名―

王・李・張

 先日、雑誌をみていて、はてなと思ったことがありました。中国でいちばん多い姓が「王」となっていたのです。これまでは、ずっとわたしの姓、つまり「李」だったはずなのに……この記事によると、一位は「王」で9500万人、二位は「李」で9300万人、三位は「張」で9000万人、この三つの姓で中国の人口の21パーセントを占めると書かれていました。前回(2006年)の調査では李がトップだったとも書かれていました。この記事は、1000万人を越える姓が23種類で、あわせると総人口の56パーセントになるとも書かれていました。

 この記事をみていて、最近、中国で問題となっている「同姓同名」が増えている問題の数字の上のデーターを知ることができて、なるほどなと思いました。十三億の人口VS限られた姓と限られた漢字、そう簡単に解決案が生まれる問題ではないでしょう。

 莫言・李娜

 こうした情況に輪を掛けているのは、一字の名を付ける流行です。大昔にも李白、杜甫といった一字の名はありましたが、最近ではノーベル文学賞の莫言、女子のテニスで世界を舞台に活躍している李娜、鄭潔、張帥……新聞の紙上でも男女とも一字の名が目立ちます。最近男の子を生んで「和」という名を付けた女性に「どうして一字なの」と聞いてみると「そのものずばり、いちばん気に入った一字だけが純粋で、素朴で、邪魔がないから」という返事が返ってきました。古くさくなくて、なんとなく恰好もいいし、響きもいいからと答えた人が数人いました。

王蕾・劉平

 「同姓同名」といえば、こんなハプニングがありました。わたしの回りで起きた実話です。

 知人の王徳望さんは、奥さんが出張中だったので、中学一年の娘の父兄会にはじめて出席しました。廊下で先生に「王蕾の父ですが」と言うと「あそこの教室ですよ」と教えてくれました。しばらく全般的な説明を聞いたあと、一人一人の生徒の親と先生との個別談話に入りました。王さんと先生は三、四分話しあったのですが、どうも話がチンプンカンプン。先生がはっと気付いて「一組の王蕾さんのお父さんでしょう。わたしは二組の担当なのですが……」と言いました。二組にも王蕾という生徒がいたのです。王さんはたいへん恐縮して先生に頭を下げ、あたふたと教室を出たそうです。9500万人とナンバーワンの姓「王」、それに加えて響きもよく(lei)、意味も「香りのいい花のつぼみ」とよい「蕾」は女性に人気の名の一つ、「同姓同名」が多いのも無理ありません。

 もう一つ「同姓同名」のハプニング、やはりわたしの回りの実話です。知人の劉培源さんの男の子の名は「平」、平和の平で無事平穏に育ってもらいたいという願いを込めて付けたのでしょう。平君が小学三年のとき病気で入院したところ、同じ部屋に「同姓同名」の劉平君がいたそうです。すぐに隣の部屋に移され、見舞に行った劉さんはちょっとあわてたと話していました。

どうしようか

 まあ以上のような事情で、一字の名は避けようという提案がときどき新聞の投書欄に出るのですが、いずれにしろ2、3種類の姓が人口の56パーセントを占めるという現状では、名を二字にしたところで問題はあまり解決されないでしょう。

 父と母の姓を並べて「複姓」にしてはという提案も出ています。これには、一人っ子政策のもとで男女平等に繋がるという意見も添えられていました。

 三千ほどという現在の姓の枠を破って新しい姓をどんどん開拓してはという提案もあります。これ���、先祖代々伝えられてきた姓を自分の代で変えるのは、中国の道徳の根本である「孝」にたいする大反逆だという高く、厚い壁に阻まれて、なかなか実現しないでしょう。

作者のプロフィール

 李順然、中国国際放送局(北京放送)元副編集長。著書に『わたしの北京風物詩』『中国 人、文字、暮らし』『日本・第三の開国』(いずれも東京・東方書店)などがある。

紹介した内容

第五十回 王府の今昔
第四十九回 光盤行動・低配生活
第四十八回 -禿三話-
第四十七回 交通マナー雑議
第四十六回 苦熱・溽暑
第四十五回 「雑家」の「雑文」
第四十四回 思い出のラジオ番組
第四十三回 大学受験シーズン
第四十二回 五月の色
第四十一回 ―法源寺・鑑真和上―
第四十回 北京の若葉
第三十九回 煙巻褲(イエンヂュエンクウ)
第三十八回 踏青
第三十七回 シルクロードの旅点描
第三十六回 シルクロード点描②
第三十五回 シルクロード点描①
第三十四回 春の装い
第三十三回 春を探ねて
第三十二回 擲球之戯
第三十一回 春節と餃子

第三十回 「武」という漢字
第二十九回 緑の引っ越し
第二十八回 北京っ子と風邪
第二十七回 橄欖球・水泳・羽毛球
第二十六回 足球・篮球・乒乓球
第二十五回 九九消寒図
第二十四回 北京の冬
第二十三回 衣がえ
第二十二回 落ち葉
第二十一回 老舎と菊
第二十回 中日共同世論調査をみて②
第十九回 中日共同世論調査をみて①
第十八回 天高気爽③
第十七回 天高気爽②
第十六回 秋高気爽①
第十五回 納涼④
第十四回 納涼③
第十三回 納涼②
第十二回 納涼①
第十一回 男はつらいよ
第十回 苦熱
第九回 胡主席の卓球 温首相の野球
第八回 麦の秋
第七回 柘榴花・紅一点
第六回 漢字と笑顔
第五回 五月の香り
第四回 北京の古刹法源寺
第三回 井上ひさしさん
第二回 SMAPと中国語
第一回 春天来了

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