話・はなし・噺・HANASHI
第四十七回
交通マナー雑議
近頃、中国のメディアではよく交通マナーのことが取り上げられています。運転手さんのスピード違反から強引な追い抜きや割り込み、双方断固として道を譲らずのニラメッコ……きで、歩行者のマナーではいちばん多いのは信号無視です。あるメディアは「中国式道路横断法」などと書いていましたが、例の「みんなで渡れば怖くない」でしょう。
これまで歩行者の交通違反は大目にみられていましたが、最近はいくらか厳しくなっているようです。まあ、お巡りさんからの違反行為の指摘や注意、ルールの説明といった程度のものです。とくに悪質のものには少額の罰金を取ることもあるようですが……それでも、「お巡りさんの態度が悪い」とか、「規定が科学的ではない」とか、「張本人は車だ」とか、お巡りさんに論議を挑む人もいて、そのまわりには野次馬の小さな輪ができちょっとした「討論会」が始まります。理路整然としたものもあれば、ユーモアたっぷりのものもあり……わたしもときどき足を止めて野次馬の一人になることがあります。
メディアの交通マナーの紹介でよく取り上げられ、褒められるのは日本の例です。信号をよく守るとか、運転手さんが礼儀正しいとか、譲りあい助けあうとか……
先日、こんな話を聞きました。実話です。息子を日本に留学させている中年の女性が、夏休みで帰省している息子と街に買い物に出かけました。横断歩道で赤信号になりそうなので、この女性は小走りで道を渡りました。振り返ってみると、息子は道の向こう側で信号が変るのを待っているではありませんか。信号が緑となって渡ってきた息子が、ニコリと笑って「ママ、あわてて渡るとあぶないよ」とやさしく言ったそうです。この女性、息子はすっかり大人になったと嬉しそうに話していました。
まあ、北京の人口の激増、それに輪を掛けた自動車の激増、こうしたことが交通事故に繋がり、交通マナーの向上が叫けばれているのでしょうが、この雑文を書いていて半世紀も前に始めて北京に来たころの風景が何回も頭に浮かびました。1950年代のことです。北京放送への就職が決まり、汽車で天津から北京にやってきました。まず、天安門に近い前門駅で汽車を降り、リンタクに乗って復興門外にある北京放送に向かいました。チンチン電車が通る長安街を西へ20分ほど、西単に着くと長安街は、さらに西に向う南側の細い道と西から東に向う北側の細い道の二本に分かれ、その真んなかには平屋の住宅が並んでいました。南側の道を10分ほどいくと、復興門の城門です。ここにはロバが客待ちをしていて、ロバに乗り換える人もいます。もう、すっかり田園風景です。放送局は、この門から5分ぐらいの所にありました。数年後に、この門のすぐ脇に新しい放送ビルが建てられました。
北京の交通渋滞の風景
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