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第二十八回

北京っ子と風邪

 一月は北京のいちばん寒い月です。平均気温は零下4.8度、二十四節気の小寒から大寒までがいちばん寒いといわれています。今年は1月5日から1月20日までですね。

 一月は北京の人のいちばん忙しい月です。まず小学から大学まで、学校で勉強している人にとっては、1日暦のお正月、春節と呼ばれている中国でいちばん賑やかな祝日の休みの前の期末試験の季節、お勤めの人にとっては仕事始め、家庭の主婦にとっては衣食住各方面の春節の準備……

 寒さ+忙しさ=風邪、こんな公式が成り立つように、一月の北京では風邪を引く人が多いのです。北京のお年寄りは、こうした風邪治療の秘訣として「早く見つけ、早く薬を飲み、早く休む」という三原則を挙げていますが、その手っ取り早い方法の一つは、近所の薬屋さんに駆け込んで「銀翹解毒片(金銀花、連翹、白蘭根といった漢方薬を配合した成薬)などを買って飲むことです。錠剤やカプセルに入った漢方薬は手軽に飲めるし、副作用も少ないので喜ばれています。


風邪に効く漢方薬

 もっと手っ取り早いのは、老北京(北京っ子)のその家、その家に伝えられている手製の風邪薬です。例えば生姜を薄く切って黒砂糖で煮た「姜糖湯」、ネギや白菜、それに中国特産の香菜の根をじっくりと煮た「三根湯」などなどは、家で手軽に出来る風邪の妙薬です。前述の風邪治療の「三つの早く」の三原則にも適うものでしょう。

 風邪の治療、予防といえば、お年寄りは頭と足を冷やすなと言います。そこで綿入れの帽子をかぶり、靴をはくのですが、こうした帽子や靴も昨今ではファッションの一つ、色とりどり、型とりどり。雪が降ったりすると、雪の白をバックにお花畑を歩いているようです。そういえば、若い女の子のなかには花模様の入ったマスクをつけている人もいます。

 綿入れの靴といえば、一昔前の話になりますが、一九七九年に歌舞伎訪中団の一員として、一月の北京を訪れた尾上梅幸さんは「わたしの北京土産」というエッセイでこう書いています。

 「この靴は全部木綿でできている。内側に綿が入っていてゴムで続ぎ目が密封されているので、空気がしみこんでこない。足にピッタリとなじんでなかなか具合がよい。たちまち、わたしたち歌舞伎訪中団のあいだで流行してしまった」


北京の老人たちが愛用する綿入れの靴

 昨今の北京、こうした綿入れの靴をはいている人はほんとうに少なくなってしまいました。灰色の胡同の壁、そこに降る白い雪、そこを行く紺の人民服姿、黒い綿入れの靴……一昔前の風景になってしまいました。ちょっと郷愁のようなものを感じます。

作者のプロフィール

 李順然、中国国際放送局(北京放送)元副編集長。著書に『わたしの北京風物詩』『中国 人、文字、暮らし』『日本・第三の開国』(いずれも東京・東方書店)などがある。

紹介した内容

第二十七回 橄欖球・水泳・羽毛球
第二十六回 足球・篮球・乒乓球
第二十五回 九九消寒図
第二十四回 北京の冬
第二十三回 衣がえ
第二十二回 落ち葉
第二十一回 老舎と菊
第二十回 中日共同世論調査をみて②
第十九回 中日共同世論調査をみて①
第十八回 天高気爽③
第十七回 天高気爽②
第十六回 秋高気爽①
第十五回 納涼④
第十四回 納涼③
第十三回 納涼②
第十二回 納涼①
第十一回 男はつらいよ
第十回 苦熱
第九回 胡主席の卓球 温首相の野球
第八回 麦の秋
第七回 柘榴花・紅一点
第六回 漢字と笑顔
第五回 五月の香り
第四回 北京の古刹法源寺
第三回 井上ひさしさん
第二回 SMAPと中国語
第一回 春天来了

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