わたしは在日華僑二世、泰然、恭然、恵然という三人の兄がいた。長兄と三兄は天現寺の慶應の幼稚舎に、次兄とわたしは九段の曉星小學に通っていた。そんな関係だろうか、わたしは次兄にとりわけ親しみを感じている。小学のころ、次兄は「ポプラの木冬空高く伸びにけり」という俳句を作って担任の駒見先生に誉められた。
王士禛の「雪後家兄西樵を懐う」を読みながら、三人の兄、とりわけ次兄の笑顔が浮かんだ。王士禛にも二人の兄がいた。王士祿、王士裕で、西樵は王士祿の号、三人とも詩に秀れ、「三王」とよばれた。
俳句に深雪晴れという季語があるが、世俗の雜音をすべて消し去って出現する白一色に輝く無垢の天地、人影もなく、人声もなく、何もない静かな庭の雪と一人向いあう筆者、愛する兄を懐う最高の舞台だろう。
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