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話・はなし・噺・HANASHI-絵 張紅 文 李順然

第六十七回

北京―1987・4 2014・4

黄塵万丈&霧霾万丈

 私の若いころの四月の北京の記憶に「黄塵万丈」がある。数日すぎに強い西北の風が吹く。この風は西北部の砂や土を巻きあげて北京の上空に運び、この黄塵に太陽の光が遮られて昼間でも暗くなることがあった。大粒の砂や土で目も開けられない。まさに、元(1271~1368年)の劇作家北京人の関漢卿のいう「地を巻く狂風塞沙を吹く」であった。張紅さんが描いてくれた下の絵は、「黄塵万丈」とたたかう1980年代の北京人の姿をよく捉えている。

 この「黄塵万丈」、いつごろからかは定かではないが、かなり大人しいものになっているようだ。風は相変わらず強いが、砂や土、つまり黄塵はだいぶ減っている感じだ。

 ところが、これは取って代わって、もっとたちの悪い「霧霾万丈」、つまりスモッグが始まっている。去年(2013年)の11月、12月のスモッグはたいへんなものだった。北京市政府もいろいろの対策を講じているが、まず槍玉にあがったのは大量の排気ガスを吐き出す自動車だ。四年後の2017年の全市の自動車台数を600万台に押さえ、毎年の新車供給量をこれまでの24万台から15万台に押さえることになった。また汚れた空気を吐き出す工場などにも目が向けられている。北京市の16の区のうち、こうした面で「ベストスリー」にランクされている房山区では、やはり四年後の2017年までに137の工場の閉鎖がきまっている。

―霾や胡同霞て山水画―

 天壇公園&玉淵潭公園

 張紅さんの絵「天壇に映える日本の桜」、1972年の中日国交正常化を記念して日本から贈られた桜は、その後東の天壇公園から西の玉淵潭公園に移された。日本の桜は天壇の土に馴染めなかったのだ。

 玉淵潭公園はもともと皇室の御苑、敷地の半分が池という水に恵まれたここの土は、日本の桜と相性がよかったようだ。ここに、しっかりと根をおろし、枝を伸ばし、毎年の四月に満開の桜で市民を喜ばしている。これに誘われるように、国の内外から桜の苗木が玉淵潭公園に届けられ、二千本以上の桜の園となり、北京の名所になっている。

―いろいろの人思い出す桜かな―

 百花斉放 百家繚乱

 四月の北京では、もろもろの花が一斉に咲き出す。三月から咲き続けている桃や杏の花、白木蓮のあとを追うように、ライラック、海棠、藤...,そして月末には牡丹と、文字通り「百花斉放、百家繚乱」だ。このページに張紅さんは四月の花の道案内である桃と杏の花を描いてくれた。

 こうした四月の北京の花暦にも、年々新顔が姿をみせている。海を越えてやってきたものもある。前述した日本の桜もそうだが、この桜と人気を争っているのはオランダのチューリップだ。チューリップで有名なのは、天安門の西隣にある中山公園で、ここは、明清王朝の時代に皇帝が春と秋に国の安泰と五穀豊穣を祈ったところだ。園内には樹齢数百年のコノテガシワが千本以上植えられている静かな公園である。この古色蒼然とした公園の一角に、四月になると赤、白、黄色のチューリップがぱっと鮮やかな花を開くのだ。

 中山公園の牡丹も有名だ。東洋の花の王様牡丹と西洋の花の王様チューリップが、四月の北京で一堂に会してその艶やかさを競うのである。ちなみに、中山公園の中山は、中国革命の先駆者として知られる孫中山の名から取ったものだ。

―もろもろの花咲き笑う弥生かな―

作者のプロフィール

 李順然、中国国際放送局(北京放送)元副編集長。著書に『わたしの北京風物詩』『中国 人、文字、暮らし』『日本・第三の開国』(いずれも東京・東方書店)などがある。

紹介した内容

第六十六回 春のリニューアル
第六十五回 北京の旅の穴場
第六十四回 圧歳銭
第六十三回 年の瀬に
第六十二回 涮羊肉と砂鍋白菜
第六十一回 酒鬼
第六十回 漢字の危機
第五十九回 「わたしの夢」さし絵
第五十八回 赤子の心
第五十七回 菊の花と人の顔
第五十六回 馮小剛・莫言
第五十五回 国慶節・天安門・私
第五十四回 エジソンと携帯電話
第五十三回 仲秋節
第五十二回 秋到来
第五十一回 同姓同名
第五十回 王府の今昔
第四十九回 光盤行動・低配生活
第四十八回 -禿三話-
第四十七回 交通マナー雑議
第四十六回 苦熱・溽暑
第四十五回 「雑家」の「雑文」
第四十四回 思い出のラジオ番組
第四十三回 大学受験シーズン
第四十二回 五月の色
第四十一回 ―法源寺・鑑真和上―
第四十回 北京の若葉
第三十九回 煙巻褲(イエンヂュエンクウ)
第三十八回 踏青
第三十七回 シルクロードの旅点描
第三十六回 シルクロード点描②
第三十五回 シルクロード点描①
第三十四回 春の装い
第三十三回 春を探ねて
第三十二回 擲球之戯
第三十一回 春節と餃子

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