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話・はなし・噺・HANASHI

――第六十三回――

年の瀬に

 今年2013年も残り少なくなりました。中日両国民が心から望んできた両国関係の改善は、日本政府がかたくなに「領土問題は存在しない」と言い張り、誠意ある態度で交渉に臨もうとせず、前進がみられませんでした。実に由由しい問題です。

 こうしたなかで受け取った両国の草の根の交流を伝える数々の便りは、私の心を慰め、励ましてくれました。今年の最終回になる今回は、そのうちの一通、大阪の関西日中交流懇談会(略称関西日中)の「NEWSLETTER」77号の誠意あふれる内容の幾齣かを紹介し、来る年のさらなる交流を期待することにしましょう。

 ここには、今年の六月に「関西日中」の招きで日本を訪れた中国の大学生たちの一週間がぎっしりと記録されていました。この秋には大学を卒業して山間地帯の小学校の先生になる湖南第一師範学院の学生田易燃さんたちは会員宅にホームステイしながら日本の小学校を見学して回ったのです。16ページの紙面に一字一字ぎっしりと、56枚の小さな写真を添えて綴られた記録、ここには招く側と招かれる側の誠意がひしひしと感じられるのでした。前置きはSTOP、早速本文のごくごく一部を抜き書きしてみましょう。

 まず招いた側の運営委員会青木正三さん。

 「中国の三人の学生は、訪問した小学校で懸命にノートを取り、質問をし、漏らさず吸収しようという強い意志が漲っていました。……三人が片時も離さず持っていたノートは、帰国するとき、書き込まれたメモでびっしり埋っていました。……『2013年6月9日~6月15日』と日付された記録ノートは、きっと一生の宝として友好を温め続けることでしょう。」

 次は招待された側の田易燃さん。

 「見学した三ヶ所の小学校の先生がたと児童たちの温かさがまだ記憶に残っています。校長先生が『一人の落ちこぼれも出さない』と言われたことに感動しました。……もうすぐ教師になるわたしにとってたいへん勉強になりました。……私たちの農村の小学校にも生かして、故郷のために力を尽くしたいと思います。」

 もう一人、田易燃さんのホームステイ先の小野早苗さん。

 「易燃の訪問は天使が幸せを運んできてくれたようでした。言葉が通じないからこそ、ハートで通じるものがおおきかったんだと思います。……易燃はきって素晴らしい教師になるでしょう。言葉もわからない私たちをこんなに幸せにしてくれたのだから。中国の子どもたちにも彼女の笑顔と誠意が通じてきっと幸せにしてくれることでしょう。」

 まだまだ抜き書きしたいことばはたくさんあるのですが、字数の方の赤ランプが点滅し始めました。国と国との交流にしろ、団体と団体との交流にしろ、人と人との交流にしろ、いちばん大切なことは誠意、誠実であるということを「関西日中」の「NEWS LETTER」の一字一句は教えてくれていました。謝謝!

 もうすぐやって来る2014年、中国と日本で誠意に溢れる草の根の交流が素晴らしい花を聞くことを期待しています。

作者のプロフィール

 李順然、中国国際放送局(北京放送)元副編集長。著書に『わたしの北京風物詩』『中国 人、文字、暮らし』『日本・第三の開国』(いずれも東京・東方書店)などがある。

紹介した内容

第六十二回 涮羊肉と砂鍋白菜
第六十一回 酒鬼
第六十回 漢字の危機
第五十九回 「わたしの夢」さし絵
第五十八回 赤子の心
第五十七回 菊の花と人の顔
第五十六回 馮小剛・莫言
第五十五回 国慶節・天安門・私
第五十四回 エジソンと携帯電話
第五十三回 仲秋節
第五十二回 秋到来
第五十一回 同姓同名
第五十回 王府の今昔
第四十九回 光盤行動・低配生活
第四十八回 -禿三話-
第四十七回 交通マナー雑議
第四十六回 苦熱・溽暑
第四十五回 「雑家」の「雑文」
第四十四回 思い出のラジオ番組
第四十三回 大学受験シーズン
第四十二回 五月の色
第四十一回 ―法源寺・鑑真和上―
第四十回 北京の若葉
第三十九回 煙巻褲(イエンヂュエンクウ)
第三十八回 踏青
第三十七回 シルクロードの旅点描
第三十六回 シルクロード点描②
第三十五回 シルクロード点描①
第三十四回 春の装い
第三十三回 春を探ねて
第三十二回 擲球之戯
第三十一回 春節と餃子

第三十回 「武」という漢字
第二十九回 緑の引っ越し
第二十八回 北京っ子と風邪
第二十七回 橄欖球・水泳・羽毛球
第二十六回 足球・篮球・乒乓球
第二十五回 九九消寒図
第二十四回 北京の冬
第二十三回 衣がえ
第二十二回 落ち葉
第二十一回 老舎と菊
第二十回 中日共同世論調査をみて②
第十九回 中日共同世論調査をみて①
第十八回 天高気爽③
第十七回 天高気爽②
第十六回 秋高気爽①
第十五回 納涼④
第十四回 納涼③
第十三回 納涼②
第十二回 納涼①
第十一回 男はつらいよ
第十回 苦熱
第九回 胡主席の卓球 温首相の野球
第八回 麦の秋
第七回 柘榴花・紅一点
第六回 漢字と笑顔
第五回 五月の香り
第四回 北京の古刹法源寺
第三回 井上ひさしさん
第二回 SMAPと中国語
第一回 春天来了

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