(李)「よくバスに乗っていらっしゃるようですが……」
(溥)「ええ、バスはいいですね。人さまに面倒をかけることもなく、とても楽しいですよ。いろいろの風景が見られるし、いろいろの話を耳にすることもできる。世間知らずのわたしにとって、バスは、社会を学ぶ学校ですね。適当に歩くので身体にもいいようですよ」
もう少し『北京の四季』から庶民となった溥傑さんの姿がうかがえるやりとりを抜き書きしてみよう。
(李)「北京にも北海公園のなかの『ファン膳』(ファンとは人偏に方)といった宮廷料理を食べさせる店がありますが、味はどうでしょうか。以前紫禁城で食べた料理とくらべて……」
(溥)「美味しいですね。なにしろ、出てくる料理が熱いというか暖かい。紫禁城ではそうはいきませんでした。料理場から食事をする部屋まで運んでくるうちに冷えてしまうのでしょう。電子レンジなどありませんでしたから……」
(李)「宴会などでおみかけすると、お酒をおいしそうに召しあがっていますね」
(溥)「まあ、好きですね。」
(李)「酒量というか、どのくらいお飲みになるのですか」
(溥)「定量はありません。そのときの気分と体調にもよりますが、飲みたいときに、飲みたいだけ飲むとでもいうのでしょうか。まあ、中国でいう順其自然(自然の流れに従う)かな。でも、孔子の「乱に及ばず」はしっかり守っています。身体も心も酒で乱れたことはありません」
(李)「中日友好協会の理事をされておられますが……」
(溥)「はい、お役に立たない理事で恥ずかしく思っています。わたしの前半生は碌なことはしていません。せめて後半生はなにか社会にお役に立てればと思って引き受けました。どんなことでも、中日友好に、中日の平和に役に立つことであれば、手弁当でもやりたいと思っています。遠親不如近隣(遠くの親戚よりも近くの隣人)、隣同士の中国と日本が仲良くしていくことは、この二つの国の民衆に計り知れない利益もたらすことを、わたしはわたしなりによく知っています。和則両利、離則両傷(和すればともに利あり、離れればともに傷つく)ということわざの通りだと思います」
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