この辺から歩道の幅は十メートルほど、段違いの四段の並木が立体的な光と影を織りなしてくれています。こうした光と影を楽しみながらさらに西に行くと、紫禁城の北門である神武門の前にでます。
通りをへだててその向かい側には、松やコノテガシワの緑にあふれる景山が絵のように美しい姿をみせてくれます。ここも紫禁城の建設ででた土砂を積み上げて作った皇室の御苑で最高度は45メートル、山の傾斜に沿って五宇のあずま屋が並んでいます。まんなかのあずま屋は万春亭と呼ばれ、昔はここから全北京を一望できたそうです。高層ビルが林立するようになった昨今、それはちょっと無理ですが、紫禁城の全景をカメラに収めることができる絶好の場所として、カメラを構える人で賑わっています。
景山に別れを告げて、さらに西へ向かうと、通りはまたゆるやかに南にカーブします。
景山前街は終わり、文津街に入るのです。北側には、皇帝の御苑として九百年以上の歴史を持つ北海公園の白い塔が目に入ります。清の順治八年(1654年)に建てられた高さ36メートルのラマ塔です。この塔を囲む池にはボートが浮かんでいました。青い空、白い塔、きらきら光る池、"秋"いっぱいの風景です。
ここまで来て振り返り、先ほどのゆるやかな南へのカーブは、北海の風景を守るためのものだったことに気づきました。もし直線コースにしていたら北海の名園、世界一小さい城といわれる団城は、ブルトーザーに潰されて道路になっていたことでしょう。団城は直線コースの障碍物だったのです。
東の五四大街の中国美術館から西の文津街の北京図書館(ここも民族的風格をそなえた宮殿のような建物です)までの散歩、色彩の魔術師といわれた梅原竜三郎(1888~1986年)をして「北京の秋の空は音楽を聞いているようだった」といわしめた光を浴びながら中国の美の枠のパノラマを心ゆくまで楽しめる贅沢なものでした。
追記:五四大街•景山前街•文津街の通りを「世界一美しい通りだ」と言った老舎は、ロンドン、ニューヨークで暮らし、パリ、ローマ、ワシントン、東京...を旅しています。「世界一」という資格があるのです。
さし絵を添えてくれた張紅さんのいまの勤め先三聯書店は今回の散歩のスタート中国美術館のすぐ近くです。今回紹介した通りをときどき、散歩しているかも知れません。
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