第十七話
天高気爽②
北京の秋を飾る菊の花
女優の高峰秀子さんは北京放送のインタビューに答えて「北京の秋は世界一です」と話していました。梅原龍三郎画伯に師事していた高峰さん、きっと北京の秋の色彩に魅了されたのでしょう。
前回は北京の秋の色から、広い広い北京の秋の空の話でしたが、今回は地上に目を移ってみましょう。
まず秋の陽に輝いているのは菊の花、黄色と白の菊の花です。街の通りでも、周囲でも、広場でも、家の庭でも――前回の天壇のようにここが一番と挙げられる所はありませんが、いたる所で見事な菊が清々しい香りを放っています。
強いて一個所挙げるならば、北京市南部にある陶然亭公園ということになるかも知れません。別にこの公園の菊が格別美しいとか香りがいいというわけではなく、陶然亭という名前が、ここを菊の公園にしてしまっているようです。この名前は「更(さら)に待(ま)つ菊黄(きくき)ぱみ家醸(かじょう)の熟(じゅく)するを君(きみ)と共(とも)に一酔(いっすい)一陶然(いっとうぜん)とせん」という白居易(唐・772~846年)の詩から、ここに家敷を建てた清王朝の文学好きの江藻という役人がつけ、いまに至っているのです。ちなみに、1921年に北京を訪れた芥川竜之助もここに足を運んで、「簡素にして愛すべし」という感想を残していますが、いまもそんな感じの街なかの小公園です。
青、黄、白に続いて次は紅(くれない)、もみじです。北京のもみじ狩りの名所といえば、市民の十中八九が香山と答えるでしょう。香山は北京西郊外、市内からバスで30分ほどのところにある海抜557メートルの山で、十月の声を聞くと山肌が9万あまり本の黄櫨(ハゼ)の紅葉で紅く染まるのです。このころになると、北京の新聞やテレビは日本の桜だよりのように三分紅、五分紅、七分紅と紅山のもみじだよりを伝え、市民を香山へと誘います。
わたしは、十月の末もうもみじがだいぶ葉を落してしまってもみじ狩りの客も少なくなったころ出掛けることにしています。香山の麓の万安公墓にある父の墓参りがてら杜牧(唐・803~853年)の霜葉(そうよう)は二月(にがつ)の花(はな)より紅(くれない)なり」のもみじを楽しんでいます。
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