北京には、イスラム教を信仰する回教徒が、およそ20万人暮らしていると言われています。なかでも、北京の西南部にある「牛街」には、回教徒がとりわけ多く暮らしています。「牛街」の人口は、およそ5万人。そのうち回教徒はおよそ1万人。つまり、この「牛街」では、5人に1人が回教徒です。「牛街」は、「北京で最大の回教徒居住区」と言われています。
<歴史>
10世紀ごろ、遼の時代、北京一帯は「燕京」と呼ばれ、都として栄えていました。中国では、古くから海外との貿易が盛んで、当時の「燕京」にも多くの商人が集まっていました。なかには、シルクロードを通ってやってきたイスラム教徒たちや、中東諸国との沿海貿易を通じて、イスラム教信者になった中国人もいました。彼らは、心のよりどころとして、「燕京」の小さな村にイスラム教のモスクを建て、集まって暮らすようになりました。これが、「牛街」の歴史のはじまりと言われています。
<地名の由来>
この一帯はかつて、「榴街(LIU JIE)」と呼ばれていたそうです。「榴」は、果物のザクロの意味です。昔、この一帯にはザクロ園があったので、「榴街=ザクロの街」という地名で呼ばれていたのです。それがいつしか、「榴」の発音がなまって、「牛街(NIU JIE)」と呼ばれるようになったという説があります。
<交通>
北京地下鉄2号線の「長椿街」という駅が最寄り駅です。地下鉄を降りると、南のほうに向かって「長椿街」という大通りが伸びています。この大通りをひたすら南に向かって歩くと、10分ほどで「牛街」に着きます。
<どんな街?>
最近、大規模な再開発が行わればかりで、大きな高層ビルがたくさん建ち並び、道路もきれいに整備され、近代的な街並みです。一見すると、北京のほかの街と変わらない印象を受けます。しかし、北京では一般的に、お店の看板などは赤や黄色といった目立つ色が好まれるのに対して、「牛街」では、ほとんどが「落ち着いた緑色」。イスラム教国家の国旗に 緑色が使われているように、イスラム教において、「緑色」は特別な色なのです。マンションやビルの装飾などにも、さりげなく緑色が使われており、街並みも全体的にすごく落ち着いた印象です。
また、看板にはアラビア語が併記されていたり、回教徒の帽子をかぶった老人も多く見かけたりします。北京の他の街にはなかなかない、独特の雰囲気があります。
<北京牛街清真超市(北京牛街イスラムスーパー)>
大通りに面した大きなスーパー。「清真超市(イスラムスーパー)」では、イスラム教の方々の生活に必要な品々を取り扱っています。このスーパーは2003年にオープンし、北京に暮らす多くの回教徒の生活を支えています。このスーパーでは、豚肉を一切売っていません。イスラム教の戒律では、豚肉を食べることはタブーとされています。ソーセージなどの加工品も、ほとんどが牛肉で出来たものです。逆に、牛肉や羊肉に関しては種類も豊富で、店先に、羊まるごと1頭分のお肉がぶら下がっていて、その場で切りさばいて売っています。ちなみに回教徒は、頭から尻尾の先まで、いろんな部位のお肉を使って料理をします。牛の尻尾を煮込んだ「紅焼牛尾」、羊の頭を水で煮込んだ「羊頭肉」などが有名です
食品だけではなく、イスラムの雑貨も多く売られています。宗教儀式で使う品々、回教徒の男性がかぶっている丸い帽子、イスラムのお香、エキゾチックなテイーセットなど、めずらしいものがたくさん売られています。こうした雑貨をお土産に買う観光客も多いそうです。
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羊肉泡漠と羊肉串 | スーパーの2階は食堂になっています。この食堂を利用するには、受付でプリペイドカードを作ります。カードに入れる金額は10元(130円くらい)から。カードを作ってもらったら、料理を注文します。食堂はフードコートのようになっていて、数軒の屋台が並んでいます。自分の好きなお店に行って料理を注文します。「羊肉泡漠(パンのようなものをちぎってお碗に入れ、羊の肉が入ったスープをかけた料理)」や「羊肉串(シシカバブ。羊の肉を串に刺し、スパイスをかけてじっくりと焼いたもの)」など、イスラムの料理が気軽に食べられます。
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