北京はいま、日中の陽射しがとても強く、暑い日が続いています。観光客のみなさんにとってはちょっとつらい季節かもしれません。この季節は、夕涼みに出かける人が多く、街は夜遅くまでにぎわいます。みなさんも、夕方、陽が暮れてから北京の街を散策してみてはいかがでしょうか?
今回は、北京の夕涼みスポットのひとつ、前海を訪ねました。
前海は、"海"と書きますが、海ではなくて大きな湖。北京のほぼ真ん中、有名な北海公園の北側にあります。湖の周りには柳の木が植えられていて、なんとも風光明媚な場所。湖の南側には小さな広場があり、夕方になると多くの人たちが集まり始めます。ベンチに腰をかけおしゃべりを楽しむ老人や、ペットの犬と遊ぶ家族連れ。近所のみなさんの憩いの場なんですね。
「どこから来たんだい?」近所に住むパンおじさん(58歳)が話しかけてきました。とても気さくで人懐っこい老北京人。Tシャツに短パン、サンダルを履いて、手にはうちわ。完璧な夕涼みスタイルでキメています。パンさんは晩御飯を食べると、毎日この湖のまわりを散歩するのだそうです。前海のそばで生まれ育ち、この環境をこよなく愛するパンさん。外国人の私にぜひ前海を案内したいというので、私はパンさんと一緒に湖の周りを散歩することにしました。
北京の中心部には、多くの湖があります。前海はそのひとつ。元の時代、郭守敬が水利事業を行い、江南と北京をむすぶ大運河を通じて南方の食糧が運ばれるようになると、前海一帯は大いに発展しました。 明や清の時代には、多くの高官・文人がこの周辺に住居を構え、その古い街並みは今も残されています。湖の周辺は緑の木々に囲まれ、落ち着いた雰囲気です。特に夏は、岸辺に柳の枝が垂れ、蓮の花が咲き乱れ、前海のもっとも美しい季節です。その美しい環境のもと、地元の人々は夕涼みがてら、将棋や羽蹴り遊び、水泳や魚釣りなど思い思いに時を過ごします。
夜8時。あたりは夕闇に包まれ始めました。私たちは、湖からの涼しい風を楽しみながら、前海のいちばん北側まで来ていました。前海は、后海という湖とつながっています。ふたつの湖のあいだは狭い水路になっており、ここに古い石橋がかかっています。橋の名前は、「銀錠橋」。パンさんが、「この橋の上から見える景色は必ず見て帰ってほしい」というので、私は「銀錠橋」を渡ってみることにしました。橋の上から見えたのは、鮮やかな夕焼けの風景。オレンジ色の夕陽が、湖をきらきらと輝かせ、あたりの街並みを染めていきます。ここからの景色は、かつて「燕京(北京)八景」の一つ「銀錠観山」(銀錠橋から山を眺める)として親しまれてきました。地元のパンさんにとっても、ここから見る夕焼けは自慢の風景。北京の街が、静かに静かに暮れていくようすを、私とパンさんは穏やかな気持ちで眺め続けました。
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