と、このとき、背の高い強そうな男が店に入ってきて乾隆帝を見つけるとすばやく近づき、一礼してから耳打ちした。これに康熙帝はちょっと考えてからうなずき、いくらか苦い顔をして席に座った。すると、奥から五十いくつかの男が出てきた。店の主らしく、店のほかの者が急にかしこまってしまった。店の主はことを起こしたのが隅に座っている人物だとわかると、かの小僧を呼びわけをきいてから、すぐには声を掛けず、品定めのようにその人物、つまり、お忍びである乾隆帝を鋭い眼差しでみたあと、横にたっている背の高い男にもお辞儀して笑顔になり、乾隆帝に近づき頭を下げた。
「これはこれはお客さま!店のものが大変失礼なことをいたしまして、お許しくださいませ」
これを聞いた乾隆帝、それまでの怒りがいくらか収まったのか、相手が店の主と見てうなずくと、かの男が懐から二つの金塊を取り出し、「すまんが、この店の看板料理を出してくれ」という。主は、もう一度乾隆帝をみた。こちら乾隆帝は、知らん顔してあごをさすり上の空でいる。そこで主、「このお方は只者ではないぞ。気質が違うし、かなり上品だ。これは都からきた大官、または皇族の一人に決まっている。それに、強そうな男はこのお方の護衛らしい・・これは大変なことだ!」と奥で自分を待っている母、親戚と友達をほったらかすことにした。
「はいはい、わかりました。いま、うちの看板料理をお持ちします。あなたさまのお口に合いますかどうかわかりませんが。それより、そんな隅にお座りなさらずと、どうか、あの個室においでくださいまし」
そこで、乾隆帝は横に立っている人物に眼をやり、その人物がうなずいたものだから、「そうさせてもらうか」と立ち上がり、主の案内で奥の個室に移った。
一方、乾隆帝を馬鹿にしていた小僧や小者は、これに驚き、さっそく主の言いつけどおり、これから奥の大きな部屋に運ぼうとしていた大皿にのせたイシモチの丸揚げ甘酢あんかけである「松鼠黄魚」を一番先に運び、そのあとから多くの高い料理を次から次へと出した。また、亭主がお詫びの言葉を続けるので、乾隆帝もいくらか困り、ただ空腹を満たすために、黙って料理に箸を伸ばしていたが、最初に運ばれた料理、つまり、「松鼠黄魚」は、魚の姿を保ち、色もよく、口に入れると甘酸っぱくてうまいので、ほのかの料理もよかったが、これが特に気に入った。
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