(五)「狄惟謙」ー3
こうして巫女は太い棒でひどく叩かれ、死にそうになったところを川に投げ捨てられた。そして狄惟謙は、役所のすべての役人に暇を出し、自分は官服をまとって祠の後ろの山に登り、なんと崖の上に座り天に雨を乞い始めた。
一方、巫女が県令に殺されたことを知ったものが、これを知らせに回ったので大騒ぎ。そして自分たちが敬っている県令が一人で崖の上で天に雨を求め始めたと聞き、山のふもとや崖の下には人々が集まり、こんな焼けるような暑い日にそんなところにいると死んでしまうといって崖から降りてくるようみんなで願った。しかし、狄惟謙はこれを聞き入れず、目をつぶって天を仰ぎ、雨を恵んでくれるよう天に願い続けた。こうしてみんながこの様子を見守っていると、なんと砂風が吹き始め、それまで雲ひとつなかった空の回りから雲がモクモクと湧き出し、空が暗くなったかと思うと大きな雷の音がして、長い間降らなかった雨が降り始め、瞬く間にひどくなった。こうしてからからに乾いて熱くなっていた大地は瞬く潤い、久しぶりに晋陽は生き返った。喜んだ役人や民百姓たちは、それまで我慢していたのか気を失った狄惟謙を何とか崖の上から下ろし、雨の中を屋敷に送っていった。
さて、このことを耳にした北都のかの長官は、狄惟謙が大胆にも巫女を殺したと聞いて怒ったが、晋陽一帯に久しぶりに雨が降ったときき不思議がった。そのあと、県令である狄惟謙が自らこんな暑い日に崖に上り雨を求め、本当に雨を降らした聞き、驚き感心した。そして狄惟謙を称えて褒美を出したばかりか、このことを都に飛脚をやって皇帝に告げたので、皇帝は喜び、「狄惟謙は県令の見本である。狄仁傑の子孫として恥じることなく務めた。かの巫女を殺したのは偽りの行いを懲らしめるためであり、実によい」といい、県令の職を解かないばかりか、その上の職に抜擢し、なおも銀五十万両を与えた。もちろん、狄惟謙はこの皇帝から貰った五十万両を民百姓のために使ったという。うん!
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