今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?
11月の北京、まだ真冬までは日がかなりありますが、日一日と気温が下がり、街路樹の葉の色も徐々に変わってきたようです。皆さんのところはいかがでしょうか?
ところで、先日、家内が市場でサトイモを買ってきました。家内はもっぱらサトイモをやわらかく蒸して皮を剥き、砂糖をつけて食べるのですが、わたしはそんな食べ方をしません。もちろん酒の肴にするのです。蒸したあと砂糖をつけて食べるなんてとんでもないですよね。これはうそ!
その日は、午後に台所に入り、サトイモをきれいに洗って、手袋はめてナイフで皮を剥き、適当な大きさに切っておきます。鍋に油を熱し、ニンニクとしショウガの刻んだものを炒め、香りが出たら豚の挽肉と味噌を加えます。それからサトイモを入れて炒め、水を加えてから酒、醤油と少しの砂糖を入れて煮ます。そして汁気がなくなったら、油で炒めた唐辛子を少し入れ、鍋返しをして出来上がり。酒は中国の白い酒とかく「白酒」です。もちろん、酒の肴はこれだけでなく、大根の味噌汁、ソーセージの天ぷらと白菜の浅漬けでした。うまかったですよ。特に味のついた柔らかいサトイモを口の中でつぶすように味わうのはいいですね。
日のこの時間は、清の怪異小説集「聊斎志異」から「弓術」というお話をご紹介しましょう。
「弓術」
いつのことかわからんが刑徳という男がいた。刑徳は幼いときから弓を習い、自分もいろいろ工夫し、かなり上達したので、刑徳にかなうものはいないとまで言われた。しかし、運が悪いというのか、刑徳は弓を使って食べていける仕事が見つからず、人から金を借りて商いをしても損ばかりし、豊かな暮らしは出来なかった。で、刑徳には友が多く、どうしたことか、刑徳の弓の腕を頼みに町の商人たちがしばしば用心棒になってくれと頼みに来た。
と、ある秋、刑徳は一人の商人の用心棒をしたあと、かなり金をくれたのでこれで商いをしようと思い、易者にこれからは儲かるかどうかを占ってもらった。そこで易者はいう。
「ふん、ふん!これから商いと始めようとされるとね。うん、しかし、あんたの商いは、・・・実を言うと儲かりはしませんぞ」
「え?儲からない?」
「そう。が、たいした損はないでしょうな」という。これを聞いた刑徳、家に帰って不機嫌な思いでいたが、貰った金を返すわけにもいかないので、仕方なく、金を持って旅に出た。で、目的地に着いたが、どうも事がうまくいかず、ものを買って半分金を残し、面白くないので気晴らしに馬を借りて郊外に出かけた。かなり行ったところに酒屋を見つけたので、馬を下りて店に入った。そして酒を注文し、適当なつまみで飲んでいると、角の席で一人の老人と二人の少年が酒をのみ、その横にやまあらしのように髪の毛を生やした子供が立っていた。注意してみると老人と少年の身なりはよく、「これはかなり持っておるな」とみた刑徳は黙って老人らの様子を伺っていた。しばらくして老人らは飲み食い終わり、銭を卓において店を出て行った。そこで刑徳が窓から外をみると、少年が馬小屋からラバを引いてきてそれに老人がのり、やまあらしのような髪をした子供が痩せた馬に乗って老人のあとを追い、二人の少年がそれぞれ弓矢を背負い、馬に乗りそれについていく。これをみた刑徳は、急に金がほしくてたまらなくなり、自分は弓の名手だと思って、さっそく杯を置くと小銭を卓上において店を出たあと、自分も馬で老人たちのあとを追った。
さて、暫く馬を走らせると、前を行く老人たちの姿が見えた。そこで馬に鞭を当てて刑徳は老人たちの前へ行き馬を止めるとくるりと振り返り、弓矢を取り出して老人を狙った。すると老人は少しも慌てず、腰を曲げて左の靴を脱いで笑った。
「ははは!おまえさん、何をしようというのじゃね?このわしを知らんのかね?」
これに刑徳は答えず、すばやく矢を放った。しかし、老人は何事もなかったかのようにわずかに体をうしろへ傾け、靴を脱いだ足を上げて、なん、刑徳が放った矢を足の指で挟んで受けとめたではないか。これに刑徳は驚いた。そこで老人が言う。
「そんな子供だましの技に答えるには、このわしでは大げさすぎるのう」
これを聞いた刑徳は、顔を真っ赤にして、よし、みてろと得意の技を出し、シュッ!シュッ!とものすごい速さでいくつかの矢を続けて放った。すると老人は飛んできた一本目の矢を右手でつかみとり、二本目の矢を防げなかったかのように、なんと乗っているラバから落ちた。
「やった!」と刑徳は喜んだが、よくみてみると老人は地面に倒れながら二本目の矢を口にくわえ、すばやく飛び起き刑徳にいう。
「なんと、お前さんはわしとは初対面だというのに、礼儀というものを知らんなあ」
これに刑徳、びっくりして怖くなり、自分は老人の相手ではないと悟り、これはいかんと逃げ出した。
こうして刑徳は数十里も馬を走らせたころ、ちょうど役所の金を護送する人々に出会ったので、己の弓矢に頼ってなんと銀一千両を奪った。こうして刑徳がホクホク顔でいるとき、後ろから蹄の音が聞こえてきた。
「うん?誰だ?」と刑徳が後ろを振り返ると、なんとさきほどの老人に供をしていたやまあらしのようなに髪の毛を生やした子供が老人のラバに乗ってこちらにやってくるではないか。
「そこのもの盗り!どこへ行く?今奪ったものをおとなしく半分置いていけ」
これを聞いて刑徳は怒った。
「何をこしゃくな!お前はわしの弓の腕を知っているのか?」
「ふん!さっき見せてもらったよ。それがどうした?」
この餓鬼が、生意気なと怒った刑徳は、子供が何の得物も身につけていないのをみて、ここで餓鬼を驚かしてやろうと、すぐさま弓を引き、瞬く間に三本の矢を放った。ところがこの子供は三本とも手で掴んでしまったので刑徳はびっくり。そこで子供はいう。
「こんなもの貰っても仕方がない」
こういって子供は、手首にはめていた小さな鉄の輪をはずしぐるぐる回して「ほら!ほら!ほら!」と刑徳めがけてものすごい速さで投げてきた。こちら刑徳はあわてて飛んできた輪を弓で止めたが、バキッという音がしてなんと弓が真ん中から折れてしまった。これには刑徳、化け物が現れたかように怖り、そのすぐあとに自分の放った三本の矢を子供が自分めがけて投げ。ものすごい速さでヒュー!ヒューと左右の耳をかすめた。これに刑徳は気を失ったように馬から落ちてしまった。そこで子供は近くまで来て、まずは鉄の輪を拾い、それから馬の鞍に掛けてあった銀一千両が入った袋を下ろして肩に掛けようとした。このとき刑徳が気がつき、起き上がってそれを止めようとした。しかし、子供は刑徳が気がついて起き上がったことを察していたかように、急に振り向くと一蹴りして刑徳を倒してしまった。そして金の入った袋を持ってラバに乗せ、自分もラバに飛び乗り、刑徳に言う。
「お前みたいな技じゃ。誰も倒せないよ。じゃあ、これで」と言い残し、どこかへ行ってしまった。
これに呆然としていた刑徳は、我に返ると傷ついた体を引きずるようにして馬に近づき、やっとのことで馬に乗って自分のふるさとに帰っていった。
このときから、刑徳はこれまでの怖いものなしという考えをまったくなくし、急に人には親切になり、おとなしく小さな商いを始めたという。
では次に昔の本「列異伝」という本から「変な屋敷」です。
「変な屋敷」
それは、かなりむかしのことだという。張さんという人がいて、ある屋敷に引っ越してきた。この張さんはかなり豊かであったが、引越した次の年から、どうしたことか、急に家計が苦しくなり始め、なんと二年目には食べていけなくなるまで落ちぶれ、仕方がないので屋敷を程という人に売った。
で、程さん一家は、この屋敷に引っ越してきたが、間もなくして病にかかったり、急死したりする家族や下男がでたので、程さんはこの屋敷が気味悪くなり、もう我慢ならんと、近くにすむ何さんと言う人にこの屋敷を譲り、「変な屋敷」だと言い残し、残った家族を連れとなりの町に引っ越していった。
さて、この何さん、幼いころから度胸があり、それに剣術を学んだ。その上、家の蓄えは多く、住むところには困ってはいなかったが、この屋敷は「変な屋敷」で、ここに住んだ人には災いがあるときいたので、いったいどうしたんだろうと自分で試したくなり、屋敷を安く買い入れたというわけ。
程さん一家が屋敷を離れたあと、何さんは昼のうちに屋敷に行って様子を見たものの、何も起こらなかった。では夜に来てやろうと思い、ある日、泊まるつもりで、下男に布団や酒肴を持たせ屋敷にやってきた。屋敷に入り、応接間に来て下男が気味が悪いと言い出すので、明かりをつけさせて先に帰らせ、自分は一人で晩酌を始めた。もちろん、酒を飲むのは勇気をつけるためでもあり、何さんは酔っ払わない程度に酒を飲んだあと、いくらか眠気がしたので明かりを消してから布団に入った。もちろん、愛用の剣は忘れてはいない。
こうして夜半になったころ、庭のほうで何かが動く音がした。酒を食らって寝ていた何さん、やはり、この屋敷に来る前からいくらか気を引き締めていたのか、この音に眼が覚めた。
「うん?何だ今頃?」とひそかに起きだし、剣を手にしてなんと応接間の天井にかかった梁の上にあがり、何が起きるのかと見守っていた。しばらくして庭の方でまた音がしたかと思うと、誰かが話す声が聞こえる。
「おい!屋敷の中に人間がいるような気配がするぞ」
「え?わしにはそう思えないけど」
「やっと、人間どもを追い出したというのにけしからん!」
こう言って誰かが戸を開けて応接間に入ってきた。すると消したはずの明かりがひとりでについた。これをみた梁の上の何さん、驚きのあまりもう少しで声が出そうになった。それは背丈が十尺あまりの目玉が馬鹿に大きく、黄色い服をまとったものだった。そのものは部屋の中をいぶかしそうに見ていた。実は何さんは、剣術の師匠からある術を学び、これを使うと自分の気配を相手に気づかれないという
そのあと今度は同じように眼が馬鹿でかく青色の服をまとったものと、白い服をまとったものが部屋に入ってきた。そして卓上に残された徳利と杯をみて眼を細めた。
「誰か先ほどまでここにいたようだな」
「おかしいのう。確かに誰かがいたが、気配も匂いもなくなっておるぞ」
「ふふふ!夜半になって怖くなり、逃げ出したのかもな」
「うん!そうらしい。ところで、黄色い服のおぬしはいったい何者だ?」
「わしか。わしは金だ」
「どこにおる?」
「庭の西の壁の下だ。そういう白い服のおぬしは?」
「わしか。わしは銀だ」
「どこに隠れておった」
「庭の井戸の近くの土の中だ。で、青い服のおぬしは何者だ」
「拙者か、ふふふ!拙者は人参だ」
「人参?ほーう!で、昼間はどこに隠れておる?」
「ああ。わしか。わしは台所の下のかごの中だ」
こういって三人のもの言葉を交わした。
これを梁の上で聞いていた何さん、何だ?と思ったがやはり息を殺しそのままでいた。やがて三人は「ここには誰もいないようだ。もし見つけたらひどい目にあわしてやったのに」などといいながら部屋を出て行った。しかし、何さんはそのあとも暫く梁の上でじっとしていた。
やがて夜が明けたので、何さんが剣を抜いてまずは自分が耳にした通り、庭の西の壁の下を掘ってみると、なんと甕が出てきて、その中には金が詰まっている。次に井戸の近くの土を掘ると、同じく甕が出てきて銀が入っていた。そして台所の下のかごにはごつごつした人参が入っていた。
「ははは!あの化け物たちはこれだったのか。自分たちが奪われるのを恐れて災いをこの屋敷に住む人々に加えたのだな。けしからん」
こうして何さんはこれら金銀を持ってきた袋に詰め込み、人参は気味が悪いと火で燃やしてしまった。このときから、この屋敷では災いは起きなかったという。
でも、肝っ玉の太い何さん、儲けましたね。
そろそろ時間のようです。では来週またお会いいたしましょう。
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