(二)「雨を呼ぶ」
今日のこの時間は、気候にまつわる昔の話をいくつかご紹介しましょう。
「柳氏史」という書物から「雨を呼ぶ」です。
「雨を呼ぶ」
唐の玄宗帝が洛陽にきた。それはちょうど干ばつがひどいときであった。洛陽にある聖善寺の無畏和尚が雨を呼ぶ術に長けていると聞いた玄宗帝は、側近の高力士をやっていち早く雨を降らすよう命じたが、これに和尚はこう答えた。
「いまは雨が降らないのはおかしくはありませぬ。もし、いま雨を降らす竜をここに呼びますれば、洛陽に害をもたらすでしょう。ですから。いまは雨を呼ばない方がいいということでござる」
これを行宮で高力士からきいた玄宗帝は怒った。
「なんじゃと?いまは民百姓が苦しんでいるというのに何を申しておる!竜を呼んで嵐が来ようとも、雨が降れば民百姓は喜ぶはずじゃ。和尚に早く雨を呼べといいつけろ!」
高力士からこれを聞いた無畏和尚は、皇帝の命令だらか従うしかない。これをきいた和尚の弟子たちは雨を乞うときにつかういろいろな道具を用意して広場の真ん中に壇を作った。これをみた和尚は笑って言う。
「ははは!これらのものは何にもならぬ。すべてしまいなさい」
そこで弟子たちは、師匠の言うとおりにしたが、これをみていた高力士が顔をしかめて言う。
「和尚どの。どうしたのでござるか?雨を呼ばないのでは?」
「いえいえ。あれらのものはいまは使い物にはなりませんゆえ、下げさせたまでのこと」
「では、和尚どのは何を持って?」
「一杯の水だけで結構でござる」
「ええ?一杯の水だけで?」
「ま、ごらんあれ。皇帝さまのご命令ですからな」
こういって和尚は、高力士が見守るなかを弟子に一杯の水を持ってこさせ、前の卓上におくと、懐から小さな刀を取り出し、それでお椀の中の水をかき混ぜたあと、なんか知らんがむにゃむにゃと読経を始めた。これをみていた高力士が遠くの空をみると、なんと、晴れ渡っていた空に雲が現れ始め、まもなく小さな赤い竜が遠くから空を舞って来た。高力士が驚いたのは、その竜はとても小さく、指の大きさぐらいしかない。そして竜はなんとお椀の水に浸かった。そこで和尚がまた読経を始めると、濃い霧がお椀から立ち、その霧はどんどん空に上っていくではないか。これに高力士が見とれていると和尚が叫んだ。
「はやく皇帝さまの元に行かれよ。雨が来ますぞ!」
これに高力士はびっくり。そこで馬に乗り走らせ、かなり遠くへ行ったと思ったので、馬を止めて振り返ってみると、和尚のいるあたりの空は黒雲が立ち込め、風が吹きはじめた。これをみて高力士は、皇帝の泊まっている行宮に馬を走らせた。
ところが、まだ行宮に着かないうちに雨が降りだし、急にひどくなった。そして高力士が行宮に着いたときには雨でびしょぬれになっていた。
これを知った玄宗帝はよろこんだが、なんと雨が大きすぎて枯れた田畑などを潤すとというものではなく、あるところでは大水がでしまい、多くの民百姓が害を受けたという。これには玄宗帝苦い顔をし、かの無畏和尚を行宮に呼んだところ、帰ってきた高力士にによると、和尚はすでに寺をはなれ、どこかへ行ってしまったわい。
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