当時の香港映画は、ジャッキー・チェンを中心にアクション俳優が活躍していたことで世界から注目を浴びていた。

　当時の香港映画といえば、間違えなく皆アクション映画を思い浮かべるだろう。そしてその名残から、今でも香港のワイヤーアクションチームは世界の映画界で重宝されている。

　しかし、その後世界の映画界を盛り上げる舞台は、中国大陸へと場所を移した。

　「今は、香港映画なんてカテゴリーはないよ。中国大陸の映画産業とは比べ物にもならない」。

　そう言う澤田さんは、中国大陸の映画産業が興り始めた1990年代末に、中国映画界の異端児とも呼ばれる巨匠、姜文監督から熱烈なオファーを受けたのだ。未だインターネットが普及していない当時、澤田さんのオフィスには毎日のように澤田さんの出演を乞う大量のFAXが送られてきたという。

　カンヌで審査員特別グランプリに輝いたその作品。

　その中でひときわ異彩を放つ澤田さんは、中国大陸の映画産業が熱を帯びるに伴い、中国の映画界で一層注目度を増した。

　しかし、注目を浴び始めた正にそのとき、澤田さんは一度日本の映画界に舞い戻っている。それは「SAYURI」や「ラスト・サムライ」、「天地英雄」などで日本の芸能界の目が一気に海外へと向いた頃だ。

　そして澤田さんは、日本で元K-1選手の魔裟斗と共演し、自身が主演した映画「武勇伝」で過去に痛みを抱えるバーのオーナーを演じた。アクション映画でありつつも、アクションのみでない演技力を世に知らしめたのだ。

　近年、澤田さんは再び中国の映画界から数々のオファーを受けている。

　昨年出演を果たした「葉問（イップマン）前伝」、イー・トンシン監督の前作及び現在撮影中の「大魔術師」以外にも、若手の新鋭として期待がかかる寧浩監督やその他数多くのオファーを受けるなど、姜文監督やイー・トンシン監督のような巨匠のみでなく、業界の幅広い実に多様な個性を持つ映画人が注目する澤田さん。

　中国の映画界で俳優・澤田拳也とは、自ずと注目せざるを得ない存在なのだ。

　澤田さんの目は今、中国に向いているのか、と聞くと、彼はこう答えた。

　「元々ボーダーはないけどな、今の状態だとやっぱり中国だろう。」

　（取材・文：中原美鈴）

　「これからの中日交流を支える若者たち」、スペシャル企画でお送りしていますが、来週の第三回は、澤田さんが見る中国の映画業界について、そして日本人の役者として世界で活躍するために必要なことなど、中国で役者を目指す若者たちへのエールとも言えるそのお話の内容をお届けします。

　お楽しみに！