<コレ若>シリーズ第五弾、今回は異例の第五回です。これまでの4回で、舞台「珈琲店的太太」の魅力を存分にお伝えしてきましたが、第五弾のラストを飾る今回は、演出を手がけた雨晴義郎さんから寄せていただいたお話と共に、そのユニークな舞台の一部を垣間見ることのできる映像を共にお送りします!
第五回 クローズアップ:雨晴義郎さん
芝居はナマモノ。企画の段階で「演(や)る」と決めたからには、その先にどんなアクシデントが待っていようとも、覚悟を決めて腹をくくらなければならない。「想定外」を理由に、上演を中止する訳にはいかないのである。わざわざ幾ばくかの金額で一枚のチケットを買っていただき、わざわざ劇場に足を運んでいただく御客様に対して、役者は舞台上から逃げてはいけないのである。
また、それが舞台に関わる者たちの心意気でもある。
ところが、2011年3月11日「想定外」の東日本大震災が起きてしまった。
役者が本業ではない『咖啡店的太太』の出演者たちは、何ヶ月も前から稽古を開始してはいたものの、なかなか全員が揃っての稽古が出来ないでいた。ましてや、この3月11日の時点では、出演者のひとり于智為が、よりにもよって東京に出張に行っていた。慣れない東京で大地震に遭遇してしまった仲間、于智為自身の安否が当然心配されるところなのだが、公演の主催者としては、正直なところ、出演者がケガをしたり公演が中止になったりはしないかということがより大きな心配の要因となっていた。(そして誰よりも何よりも、3月25日入籍予定となっていた、Caffè il Soleで一緒に働いているスタッフの黄芬が于智為の無事を心配していたに違いなかった。)
幸いパソコンを開いてる状態だったこともあり、北京に居ながらにして、ネットから多くの地震情報を得ることが出来ていた。地震の直後、携帯電話では連絡がつかなくなっていた于智為にも、スカイプを使って無事な声を確認することが出来た。その後、于智為はホテルに戻ることも出来ず、日本に居る友人宅で一夜を過ごし、帰国するための便を確認しながら、苦労の末、数日後にはなんとか北京に戻ってくるのであるが、、、。
実は『咖啡店的太太』のウィークポイントは、もうひとつあった。出演者のひとり、大手紳太郎。彼は初演の時の出演者であり、オリジナルメンバーであるのだが、2010年の公演の後、職場の都合で勤務地が広州になってしまったのだった。稽古で5人の出演者がなかなか揃わないのも、そこに大きな問題があったように思えるのだが、でも初演を演じきった仲間のひとりである以上、出演者の本人が「再演も出演したい」と言う以上、他の誰かをキャスティングするものではなかった。他の出演者たちも、彼が週末になる度に広州から稽古場に駆けつけ、公演本番には蓄えておいた有給休暇を消化して出演を果たすものと思っていた。
ところが、本人の意志とは全く異なったところで起きてしまった東日本大震災が、彼の『咖啡店的太太』の出演が不可能であることを呆気なく決定づけてしまった。
その頃、日本国内では大きな劇場が次々に公演を中止にするニュースを見掛けるようになっていた。地震直後の頃は、交通機関も乱れ街中が混乱する中、公演を強行しては劇場に足を運ぶ観客の方々にも危険が及ぶからなのだろうと納得していたのだが、その後も自主的に公演を中止にする流れに傾いている様子があった。「自粛ムード」なのである。
『咖啡店的太太』は、出演者のひとりが降板してしまうという大ピンチを抱えながらも、なんとか上演に漕ぎ着けようという方向はほとんど揺らぐことがなかった。元々『咖啡店的太太』の企画の真意に、夢を諦めずに北京にやってきた若者へのエールが込められているものであり、自分たちをも含め、北京で生活をする者たちの応援メッセージの意味合いもあったからだ。「こんな時だからこそ『咖啡店的太太』を上演するべき」と出演者や関係者の中からも声があがった。
急遽、代役を立て、ポスターなどの印刷物を刷り直し、稽古場は新たなモードへと切り替わった。きっと、日本を離れているからこそ、日本を思う気持ちがひときわ強かったりもするのかもしれない。台本の内容に手を加えることはなかったが、初演には無かったワンシーンを増やし、「がんばれニッポン!がんばろうニッポン!」のメッセージを付け加え、主人公シンジの最後の長台詞にも「俺たちは諦めない」という一言を加えた。
お陰様で、公演は無事に終えることが出来、初演のときよりも更に多くの御客様に観に来ていただけた。ひとまず劇場に足を運んでいただけた方々に楽しんでもらえたことは、主催者として大きな満足感を得ると共に、ホッと胸をなでおろしたりするのである。
(映像、文:雨晴義郎)
5回に渡ってお送りした舞台「珈琲店的太太」、如何でしたでしょうか?北京ドリームを抱いてやってきた若者のストーリーを軸としたこの舞台、この舞台の上演こそがまた、ひとつの北京ドリームが具現化されたことを表しているのではないでしょうか。
さて、<コレ若>シリーズ、来週からはスペシャル企画として、中国の大陸や香港映画とかかわりの深い日本人俳優・澤田拳也さんに登場していただきます。
今や中国の映画関係者の間で知る人ぞ知る存在となっている澤田拳也さん。どうぞお楽しみに!
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