「なんだい?」
「明日、お前行くんだろ?私には何のたくわえもないけど、これは私がこの家に嫁に来たとき実家から持ってきたものだよ。明日にでも町の質屋でお金に換え、旅の路銀にしな」
これに孟金貴はびっくり。早速あけてみると、腕輪と耳輪が入っていたので、孟金貴はこみ上げてくるものを抑えきれなくなり涙流して跪き、「かあさん、すまない」とつぶやいた。
さて、その日の夕方、孟金貴が水汲みに行ったので、母は息子が持っていくという袋を開けてみた。すると、服の下から一本の匕首が出てきたのでびっくり。そこで家に入ってきた孟金貴に震えた声で聞く。
「金、金貴、お前出稼ぎに行くのに匕首なんかもって何するんだい?」
これに孟金貴は一瞬青ざめたが、すぐに笑い顔を作って答えた。
「ああ、その匕首はね。自分を守るためのものさ。かあさん、岳陽は遠いんだよ。途中で悪いやつにぶつかったらどうする?下手したら命がないもんね」
「ああ。怖いね。お前は罪を犯したことがあるんだから、気をつけないと。頼むよ」と母はまた涙ぐんだ。
これに孟金貴はただうなずくだけ。そこで話を換えた。
「かあさん、孟大さんはどこに住んでるんだい?」
「え?族長さんかえ?ああ、あの人なら元のところだよ。お前、あの人に何か用かい」
「いや、ただ聞いてみただけ」と言ったけだった。そこで母が言う。
「そうだ。お前は知らなかっただろうが。あの方がとてもいい人だよ。お前が捕まってから数日後に孟大さんは、一人暮らしの私を心配して様子を見に来る以外に、人を雇ってうちの畑を耕し、種まきや穫り入れまでやってくれたんだよ。それに正月になると肉を持ってきてくれてね。それにお前が捕まった数日後に、四百文をくれたんだよ。役所からの見舞金だって。おかげで私は一人でもひもじい思いをせずにいられたよ。まあ、これまで百五十文使っちゃったけどね。ありがたいね」
「え?四百文?俺が罪を犯したのに役所からの見舞金だって?」
「そうらしいね。はっきりわからないけど、もらっておきなというからもらっておいたよ」
これに孟金貴は不思議でならなかった。
「母さん、それは何かの間違いだよ」
「間違いじゃないよ。孟大さんがそういってたんだから」と母は言いながら首をかしげた。そして引き出しから小さな包みを取り出し息子に見せた。そこであけてみると確かに二百五十文が入っていた。孟金貴は椅子に座り、黙って考え込んだ。
「どういうことだ?孟大は俺にとっては仇だが、お袋にとっては恩人になる。どうしようか・・」
その夜、孟金貴は横になりこればかりを考えていたが、そのうちに寝てしまった。やがて東の空が明るくなり、母が温かい飯をこしらえ、息子を起こした。朝飯を食べた孟金貴が、さていくかと腰を上げたとき、誰かが来た。
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