今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は、むかしの本「瀟(しょう)湘録」から「酒飲みの客」と「会昌解頤(い)録」から「肖という老人」というお話をご紹介いたしましょう。
最初は「瀟湘録」から「酒飲みの客」です。
「酒飲みの客」
並州という町で居酒屋を開いていた姜修は、店の方は妻と小僧に任せ、酒ばかり食らっていた。姜修は人と飲むのが好きだが、決まって酔っ払い、後始末が悪いので、人は姜修と飲むのをいやがっていたので、酒友達といえる者はなかった。
ある日、店に一人の客が来た。その客は黒い服をまとい、背が低くて太っており、席に着くと酒を注文し、なんと主の姜修と酌み交わしたいという。これに喜んだ姜修は早速その客の向かい側に座ったところ、客が笑っていう。
「はっはは!わしはこの世で酒が一番好きでのう。しかし飲み足りんわい。もし気が済むまで飲めたらどんなに気持ちいいことか。が、そうはいかないのでいつも悩んでおる」
これに姜修は聞く。
「お客さんは、いったいどれだけ飲めば気が済むのですかな?」
「はは、ま、それは自分でもはっきりわからん。そこで主に頼みたいことがある」
「おっしゃってくださいよ」
「それは他でもない。これから毎日わしの酒を飲ましてくれんか?それが出来るのはあんたしかいないんだ。酒代なら何とかなる。それにこのお礼は必ずするから安心しなされ」
「いや、酒代やお礼などどうでもいい。どうせうちは居酒屋だから酒ならある。それよりもみんなが嫌がるわしを酒友達にしてくれたんだからな。これからは毎日、二人で仲良く気持ちよく飲みましょうよ。さ、店じゃなくて奥で飲みましょう」
ということになり、二人は早速、奥の部屋で酒盛りを始めた。すると、その客は遠慮なく飲み続け、しばらくすると一人で三つの酒甕をあけてしまったのに酔った様子はない。これに姜修はいくらか驚いた。というのはここら一帯で大酒飲みといえば自分の右に出るものはいなかったからだ。喜んだ姜修は店の小僧に酒甕をたくさんもって来させ、二人は飲み続けた。そのうちに姜修は何かに気づき聞いた。
「ういー!と、ところであんたが大酒飲みだということはわかったが、私は姜修という。あんたの名前は?」
「おお。うふ!酒を飲んで気持ちがよくなり、うふ!それを言うのを忘れておりましたワイ。わしは苗字は成、名は徳器といってな。祖先はたいていは郊外に住んでいたが、わしのときに偶然によいことにあい、わしを使ってくれたんですよ」
「ええ?なんのことかよくわからんが」
「わしはもう歳でな。今は修行がおわり、こうしてここで酒を飲んでおる。そうじゃな、酒甕六つもあれば、足りるじゃろう」
「え?修行が終わり、ここで酒を飲んでいるじゃと?それに酒甕が六つ?」
「まあわからんが、飲みますぞ!」
とこの客人は飲み続けた。そのうちに姜修は酔いが回りはじめたので杯を置いたが、客はまだ飲み、とうとう一人で酒甕七つを開けてしまった。これに姜修があきれていると、さすがの客も酔いが回り、なんとうれしくなってよろよろながら踊り出した。そこで姜修は、危ない、危ないといいながら止めようとしたが、自分も酔っているのでその場で転んでしまった。すると客は転んだ姜修を見てげらげら笑い出し、ふらふらと倒れた。そこで姜修は店の小僧を呼んで客を抱き起こして部屋の床に寝かせた。すると客は大きないびきをかき始めた。
「やれやれ。とうとう酔っ払って寝てしまったか、でも、七甕も飲むとは驚いたねえ。わしなんか到底及ばない」と姜修は酔いを醒ますため冷たい水に頭を浸けたあと、客が寝ている部屋に来たとき、客のいびきが止まり、客はがばっと起きると大声を上げて表に走り出た。
「おい!おい!」と慌てた姜修が店の小僧にあとを追わせたが、しばらくして小僧はけげんな顔して戻り、不意に震えだした。
「おい!どうしたんだ?あの人はわしの大事な酒友達だぞ。どうして連れて帰らなかった」
「そ、それが。おやじさん・・」
「なんだ。どうした。早く言え」
「それがあの客はぶっ倒れ、なんと瀬戸物に変わってしまったんですよ」
「なんだと?何をいっとる!」
「信じなかったら、一緒に見に行きましょう」
ということになり、姜修は小僧と一緒に客が倒れたというところに来た。
すると、そこには壊れた酒甕が落ちていて、中なら酒が流れ出ていた。
「なんだこれは?するとあの客は・・・」
このときから、姜修は恐ろしかったのか、信じられなかったのか酒をあまり飲まなくなったワイ。
次は「会昌解頤録」から「肖という老人」です。
「肖という老人」
唐の開元年間、元自虚は汀州の長官となった。汀州の役所の近くのある屋敷に一家と移ったその次の日、地元の役人や金持ちがそろって挨拶にやってきた。そして人々は帰ったが一人の肖という老人が残ってこう言った。
「これは長官さま、お聞きくだされ。わしと家族はこの役所の屋敷の近くに長いこと住んでおりましてな。これからは隣同士、仲良く暮らしましょうや」
これに元自虚が不思議に思い、いったいどういうことか聞こうとしたが、老人はふと消えてしまった。驚いた元自虚は部屋の外や庭に出たが、老人の姿はなかった。この元自虚は肝っ玉が太く、神やお化けを信じなかったので、そのときは首を傾げただけ。
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