「族長の孟大」
唐の貞観年間、ある年の春の黄昏、一人のぼろの服をまとい、髪の毛をばざばさにした男が山間(やまあい)の小道を歩いていた。この男、孟金貴といい、囚人が働かされるところから逃げてきたのだった。このとき孟金貴の頭にあるのは、家に帰って腹いっぱい飯を食ったり、気持ちよく寝たりすることではなく、ただ仕返ししてやるということだけだった。
三年前の秋、それは月も出ていない夜で、その日、孟金貴は他の二人の男と組んで町の大きな金貸しの家に盗みに入ろうとした。が、どうしたことか、屋敷に忍び込んだ途端、気づかれてしまい、何もとらずに逃げたが、なんと顔を見られた。もちろん、届けを受けた県の役所は似顔絵をところどころに張り、孟金貴ら三人を捕らえようとした。
そこでこの盗賊三人はばらばらになり、孟金貴は慌てて山の洞穴に隠れたが、村の族長である孟大が県役人らを連れ、孟金貴を捕らえに来た。こうして孟金貴は三年の刑となり、北のほうに送られ労役として万里の長城に使う石運びをやらされた。しかし、それに耐え切れなくなった孟金貴はある日、見張りの目を逃れて必死でふるさとに帰ってきたのだ。
「ふん、家に着いたら、様子を見て奴の屋敷に忍び込み、一家のものを皆殺しにしてやる。そうすれば誰がやったかはわかるはずがない。そしてその足で岳陽に逃げてやる」
こうして夜に入って孟金貴は家に着き戸を叩こうすると、戸が開いた。
「誰だい?」
この声に孟金貴は胸が熱くなった。幼いときに父を亡くした孟金貴にとっては優しい母だけが身内だった。
「母さん。俺だよ。息子の金貴だよ」
「え?金貴かえ?私の息子の金貴かえ」
「うん。金貴が帰ってきたんだよ」
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