今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は、むかしの書物「原化記」から「じいさんと瓢箪」「酉(ゆう)陽雑俎(そ)」から「王先生」、「宣室志」から「月を取る」、それに「通幽記」から「逃げてきた女子」という四つのお話をご紹介しましょう。
最初は「原化記」から「じいさんと瓢箪」です、
「じいさんと瓢箪」
時は唐の元和年間、大風が吹いたばかりの河南崇山の少林寺に杖を突いたじいさんがきて、門を叩き一晩泊めてくれと頼んだ。寺の僧侶はどうしたことか門を開けず、じいさんに外にある小屋に泊まれという。そこでじいさんは仕方なく小屋に入ったが床や椅子もなかった。
さて、夜になり、僧侶が起きて庭に出ると寺の外が明るくなっている。
「うん、なんだ?どうしたんだ?」と門をあけて出てみると、じいさんが泊まっている小屋から光が出ていた。そこで窓から覗いてみると、中には絨毯が敷いてあり、椅子のとなりの床には綺麗な布団が畳んであり、また翡翠の色の幕が上から吊るされ、そのほかいろいろとあってかなり贅沢であるばかりか、多くのうまそうな食べ物が並べてあった。じいさんは一人で満足そうに飲んだり食ったりしている。僧侶はこれに驚き、戸を叩いて入るのも何だからと寺に帰って他の僧侶を呼んできた。そしてみんなが黙って外から見ていると、じいさんはあくびをして寝た。
一方、外の僧侶たちはそれでもその場を去らなかった。やがてじいさんが目を覚まし、顔を洗って、懐から一つの瓢箪を取り出した。ふたを開けると、なんと部屋の中の床、布団、幕、椅子と絨毯などすべてがヒューという音を出して瓢箪の中に入ってしまった。これに僧侶たちはまたまたびっくり。そこで小屋の戸をあけて中に入り、みんな手を合わせてお辞儀してからこれまでのことはどういうことだとじいさんに聞く。ところがこのじいさんはニヤニヤして「わしは潘といい、南の方から来て太原に向かう途中じゃ」と言い残し、風に乗るようにふわふわとどこかへ行ってしまったワイ。
次は「酉(ゆう)陽雑俎(そ)」という本から「王先生」です。
「王先生」
王先生の住まいは烏江という川の上流にあり、彼は普段から身を隠すのが好きで、近くの村人たちは王先生のことを変人と呼んでいた。
ある日、村に火事が起きたので、王先生が様子を見に行き、大声で「火よ!はやく消えろ!はやく消えろ」と叫んだところ、なんと火は小さくなり、やがては消えた。そこで村人は王先生が仙術か何かを使えることを知った。
翌年、楊晦(かい)之という男が、都の長安から馬の旅に出て烏江にきた。そしてどこから聞いたのか、ここに住む王先生が仙術使いだと知り訪ねにいった。
屋敷では、王先生が頭に黒い頭巾を巻き、濃い黄色の服をまとい、台の上に座り目をつぶってじっとしていたので、これは本物だと土下座し拝んだところ、王先生は軽く手を振って楊晦之に横の椅子に座るよう勧めた。
しばらくして王先生は目を開け、楊晦之と話し始めたが、王先生のいうことは楊晦之が推し量っていたより高いものあり、それに人間として曲がったことをせずに生きよと諭したので感動し、数日屋敷に泊めてもらい教えを請うことにした。
その翌日、王先生は娘の七娘(じょう)を呼んできた。娘といっても実は七十を超えた白髪頭のばあさんで、杖を突いてきた。そこで王先生は楊晦之に「わしの娘は修行を怠けておったから老けているのじゃ」といったあと七娘に言いつけた。
「紙で丸い月の形を切り、大部屋の東の壁に張りなさい」
そこで七娘は言われたとおりに、月の形の紙を切って、それを大部屋の東の壁に張った。やがて夜になったが、不思議なことに壁に貼られた丸い紙は本物の月のように光りはじめ、部屋の中を明るく照らした。驚いた楊晦之はいったいどうなっているのか分からず、いくらか怖くなり夜が明けるのを待って屋敷を離れようとした。そのとき、王先生が娘の杖で地べたを叩いたので、不意に白い煙が立ちこめ、朝だというのに辺りは真っ暗になった。どれだけ待っただろうか、楊晦之が座ってびくびくしていると煙が消え去り、明るさが戻ってきたので恐る恐る庭に出てみた。するとそこは断崖絶壁だった。これに楊晦之はへたへたと座り込み、冷や汗でびっしょりになった。
「なんということだ。瞬く間にこの世が変わってしまうとは。私はもう都へは帰れないのだろうか?」と楊晦之は涙を流した。これが聞こえたのか、王先生がきた。
「安心せよ。これはわしの遊びじゃ」
王先生はこういうと近くにあった箒で自分の立っている周りを掃くと、またも白い煙が出て来てすぐ消え、そこは元の庭に戻っていた。
「楊晦之や。もう屋敷を離れてもよいぞ。そちは正直者じゃ。わしの言ったことを守り、これからはしっかり生きよ」
王先生がこういうので楊晦之はうれしくなり、さっそく乗ってきた馬に乗り都の長安に向かった。また自分の馬は王先生の屋敷の餌や草を食べたせいか、飛ぶように早かったワイ。
長安にもどったあと、楊晦之は学問に励み、曲がったことをせず、後に人のためになる人物になったという。
今度は「宣室志」から「月を取る」です。
「月を取る」
唐の大和年間、周生という男が洞庭山に家を建てて住み込み、常に道術をつかって近くの貧しい人々を助けていたので人々は周生に感謝していた。
翌年の秋、周生は弟子を連れ洛谷に向う途中、広陵のあるお寺に泊めてもらった。その日は数人の旅人もこの寺に泊まっており、満月の夜に周生はこれら旅人と月をめでていた。と、ある旅人が開元年間に玄宗帝が月に遊んだという話したあと、自分たちも月に行けたらなあと言い出した。そこで周生が笑って言う。
「私はかつてある方にその術を教えてもらい、月を取ってきて懐か袖の中に入れることが出来るが、みなさんは信じるかな?」
これに旅人たちはびっくり。
「あんたがどこの誰かかは知らないが、周さんそれはちょっと・・」
「ははは!私はこれまでうそをついたことがない」
「ほんとかね。そんなことできるのかい?」
「まあ、みていなさい」と周生は寺の住職から大きな部屋を借り、中に明かりをつけたあと自分の弟子に数百本の箸を紐で一つに縛らせた。
「いいですかな。私が箸の梯子で天に登って月を取ってくるから、あんたたちは外で私が呼ぶのを待っておれや」
ということになり、弟子と旅人たちは外に出た。もちろん外には月が出ている。しばらくするとどうしたことか、雲が出てきて月を隠してしまい、風が吹き出し、その雲を飛ばしていったが、なんと月はなく、あたりが暗くなったので旅人たちはびっくり。このとき、部屋の中から周生の呼ぶ声がした。そこで旅人たちが急いで部屋に入ると周生が明かりから離れて立っている。
「周さん、大変だ!空の月がどこかえいってしまったよ」
「はっははは!安心しなさい。月は私の服の中にある」
「ええ!?ほんとうかい!!」
これに周生が帯を解いて自分の長衣を開くと、中には一寸ぐらいの大きさの明るい月が入っており、その光が部屋を昼間のようにまぶしく照らした。また寒気がする。
「どうじゃ?これでおわかりかな」と周生。
これに旅人たちは腰を抜かしたかのように地べたに座り込み、しばらく途方にくれていたが、急に何かに気づき、「周さん。わかりましたよ。なんだか怖くなってきたので、その懐のお月さまを空に返してくださいな」と言い出した・
「はっはっはっは!わかった、わかった。では外に出なさい」と周生が言うので、旅人たちは這うように外に出て部屋の戸を閉めた。そして風が雲を運んできてまたそれを吹き散らしたと思ったら、と空には明るい月が出たワイ。
しばらくして周生が部屋から出てこないのに気づいた旅人が部屋に入ってみると中には誰もおらず、周生の弟子も姿を消していた。
最後は「通幽記」から「逃げてきた女子」です。
「脱げてきた女子」
博陵にすむ崔咸は幼いときから静かなところを好んだ。いつも一人で本を読んだり、若いのに庭に出て草花をいじったりして過ごした。
ある雨がやんだ日の夜、崔咸が書斎で本を読んでいると、庭で物音がする。
「うん?なんだ」と窓を開けると、どこからかは知らないが白い服をまとった一人の若い女子が来たので、戸をあけて中へ入れた。
「あんたは誰だい?こんな夜に。怖くはないのかい?」
崔咸がこう聞いてもこの女子は下を向いて黙ったまま。そこでこの女子はどこからか逃げてきたのだな。きっといやで仕方がないことがあったに違いないと思い、「じゃあ今夜は隣の部屋で休みなさい。私は何もしないから安心して」といって女子を隣の部屋に案内し、自分は書斎に戻って本を読み続けた。
そして寝ないで夜が明けるのを待ち、そろそろ女子を起こして家に帰らせようと隣の部屋に行くと、なんと女子は床の上で死んでいた。これに崔咸はびっくり仰天。腰を抜かして這うように部屋から庭にでた。そして親に叱られるのがいやなので屋敷の者は起こさず外に出た。
すると七八人の何処かの金持ち屋敷の下女らしいのが、青い顔して人探しにこちらに来た。
「死んだものが逃げるわけがないでしょう」などと下女らはいいながら焦っている。そこで崔咸は思い切って聞いてみた。すると相手は、「何でもありません」と答える。そんなことはないと崔咸がしつこく聞くと、その家の三番目の娘が二日前に亡くなり、昨日の昼過ぎに棺に入れたところ、夜になって棺が空になっていたという。
そこで崔咸はどんな身なりをしていたと聞くと、白い服を着ているというので、これは大変だと下女たちを家に連れて行き、かの部屋に案内したところ、床の上の死人は確かに自分たちの屋敷の三番目の娘だという。そして下女たちが亡骸を運ぼうとしたが、どうしたことがあまりにも重くて持ち上がらない。そこに崔咸の二親が来てびっくりし、崔咸を叱ったあと、庭に台を置き、近くに住む巫女を呼んで魔除けのまじないをさせたところ、娘の亡骸はやっと運び出せた。
それからというもの、崔咸は一人でいるのが怖くなり、いつも家族や友と時を過ごすようになったわい。
そろそろ時間です。来週またお会いいたしましょう。
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