今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は昔の著「夜譚随録」から「犬の恩返し」、それに清代の「耳食録」から「人の影」というお話をご紹介いたしましょう
はじめは「夜譚随録」から「犬の恩返し」です。
むかし、肌が白く、黒い眼をしており、人に会うといくらかはにかむ少年がいた。少年は一人暮らしで、家には黄色い犬を飼っており、どこへ行くにもこの犬を連れ、寝るときも、犬は必ず、床の横にうずくまっていた。
ある日の夏、少年は犬を連れ郊外に散歩に行った。そして葦の池の近くまで来たとき、空模様が怪しくなり、そのうちに大雨が降り出したので、少年は大きな樹の下に走り込み雨宿りしていた。
しばらくすると、この少年より年上の金持ちの三人のどら息子らしいのが鷹を腕に止め、剣を腰に挿し、あたふたと走ってきて、やはり、雨宿りに樹の下に入った。そこで、人付き合いの嫌いな少年は、雨に濡れないように側のほうによったところ、三人のどら息子は、この樹の下の先客をじろじろ見た。そして少年が女子のように美しいので、変な気を起こし、一人が黄色い犬を見た後、ほかの二人にいう。
「白と黒、それに黄色か」
これに他の二人はニヤニヤして答えた。
「まったくだ!ひひひ!色が白いし、眼はまっくろ!それに真っ黄色な犬を連れていやがら・・」
これを聞いた少年はいやな感じがしたが、知らん振りしていた。そこでどら息子の一人が、「こいつは耳が聞こえないのか?」とあざ笑う。少年はそれでも聞こえないふりをしていたが、このとき、雨が小さくなったので犬を連れて樹の下を離れようとした。すると最初に変なことを言い出したどら息子が、ふと出てきて少年の行く手をさえぎった。
「なんだ?何をする?」
「おお。お前は耳が聞こえるじゃないか?」
「それがどうした?」
「なんだと?俺たちが話しかけているのに、どうして返事しなかった?」
「返事などする必要はない」
「なんだと?かわいい顔しているくせに生意気な口利くな!こいつ」
「そうだ。そうだ!おい!」
と一人が他の二人に目配せした。これに気付いた少年は逃げ出そうとしたが、それを後ろからどら息子の一人が少年の襟を掴んだので、少年はばたばたした。これを見た犬が急に吠え出し、そのどら息子に飛びかかった。この犬は普段はおとなしく、めったに吠えないのだが、このときは自分の主が危ないとわかったのだろう。激しく吠え、なんと飛び上がって少年の襟を掴んでいるどら息子の腕に噛み付いた。これに他のどら息子の腕に止まっていた鷹が驚き、飛んでいってしまった。もちろんどら息子たちもびっくり。そこで腕をかまれたどら息子は、痛いのをこらえて少年の襟を掴み続け、ほかの二人が腰に挿した剣を抜いて、なんと犬を刺し殺してしまったわい。これに少年はびっくりして、自分の襟を掴んでいる腕を振り解き、倒れた犬に覆いかぶさり、激しく泣き出した。これに三人のどら息子はげらげら笑い出し、伏せて泣いている少年を引っ張り起こし、なんとその服を剥ぎだし、とうとう裸にしてしまい、近くの葦の池に放り込んだ。
「ざまあみろ!池の中で頭を冷やせ!」と三人は言い残してどこか行ってしまった。少年は池の中でばたばたしていたが、池があまり深くないことに気付いたものの、あまりひどいことをされたので、泣きながら助けを呼んでいた。
どのぐらいだっただろう。向こうから馬に乗った武士がきたので、少年はいまだと声を張り上げた。これに気付いた武士は、馬から下りて少年を池から助け上げたので、少年は武士に礼をいい、岸辺に散らばっていた服をきた。それを見て武士は馬にのり、その場を立ち去った。
そこで少年は慌てて大好きだった犬の亡骸の上に伏せてしばらく泣いたあと、犬を抱いて家に帰った。そして庭に穴を掘って犬を埋め、またしばらく泣いていた。
その夜、少年の夢に死んだ犬が出てきていう。
「ご主人さま、私の生きている間は、本当にかわいがってくださいまして、ありがとうございました。そしてご主人さま。これから出かける際は、十分気をつけなされませ。もし、危ないことがあったらこのわたしめが必ずお助けいたします。ご心配なく」
眼を覚ました少年、この夢を不思議がったが、これに何かあると固く信じていた。
さて、それから半月の間、少年は遠くへ出かけることはなく、ほとんど家で本を読んだり、詩を書いたりして、可愛がっていた犬を失った悲しみを忘れようとしていた。ところが、ある日、通州に住む叔母が病に倒れたという手紙をみて、赤ん坊のときに二親をなくしたあとの自分を育ててくれたこの叔母を見舞いに行くことになった。
この日、少年は通州に住む叔母の家を離れて、速く戻ろうと帰途を急いでいたところ、ある村の近くの道で、どうしたことか、かつて自分を辱め、可愛がっていた犬を剣で刺し殺した、かの三人のどら息子に出くわしてしまった。そこで少年は必死に逃げ出したが、なんと自分に気付いたどら息子たちは、瞬く間に少年に追いつき、またも裸にしようとしたので、少年は死に物狂いでもがいた。
と、そのとき、村のほうから一匹の大きな黄色い犬が吼えずに走りよってきて、なんど牙をむき出し一人のどら息子に飛び掛ると、喉を噛み切ってしまったので、そのどら息子は喉から血を噴出して死んでしまった。これを見た二人のどら息子、戦いて逃げ出そうとしたところ、大きな黄色い犬が同じ様に飛び掛り、一人の片足を噛みちぎり、もう一人の片腕を噛みとってしまったではないか。こうしてこの二人のどら息子は痛さのために、地べたでのた打ち回っていると、かの大きな黄色い犬は、びっくりして立ち上がった少年に向って鼻を鳴らしたあと、不意に村のほうに帰っていった。
そこで、少年は、どら息子たちをほったらかして村に入った。すると、かの犬が近くで待っていて、少年が来たのを見てある農家の庭に入っていった。これに少年が続くと、犬は庭の隅の垣根の下に掘った穴に落ちた。これは大変と少年が穴に近寄って中を見ると犬は死んでいた。
「うん?どうしたんだ?」と首をかしげていると、農家から一人のばあさんが出てきた。
「誰だね?そこにいるのは?」
このばあさんの問いに少年は死んだ犬のことを聞いた。
「ああ、うちの犬かね。犬は老いぼれて昨夜死んだばかりさ。これから穴を埋めようと思っていたんだけどね」と答えた。そこで少年は犬にお辞儀してからその場を去り、帰途を急いだ。
で、その日の夜、少年の夢に自分の可愛がっていたあの犬が出てきた。
「ご主人さま、あなたさまのご恩はこれでいくらか返せたと思います。これから私は遠いところに行き、もうあなたさまの夢には出てこられません。ご主人さま、強くなって達者にお暮らしくださいませ。ではさようなら」
このときから、少年は人が変わったように学問と武術に励み、毎日庭にある愛犬の墓の掃除をして、犬に感謝した。そして少年はのちに悪い奴らが怖がる武芸にたけた学者になったという。
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