この縄はかなり長そうで、男は縄を輪のように丸め、一方の先を掴むと、体を揺らして縄の先を天に向けて高く放り上げた。すると。どうしたことか、縄は天のほうにするする上がり、先のほうが何かに引っかかったかのように、縦にまっすぐに立った。
これをみた役人や見物人は驚きと喜びの声を上げた。そして、縄はなんと上のほうにどんどん登っていき、そのうちに雲の中に入ったようである。
もちろん、地上ではわいわいがやがや。そしてこれからどうするのかとみんなは黙ってしまったところ、この初老の男が子供にいう。
「わしはもう年だから、この縄で天に登ることはできん。おまえが登っていきな」
「ええ?おいらが?大丈夫かな?」
「お前だったら大丈夫さ」
そこで子供は、縄を両手で握ったがすぐには登らない。
「父ちゃんも、ぼけたね。こんな細い縄をつたって天に登れといっても、途中で縄が切れたら、おいらは死んじゃうよ」
「そう怖がるな。いくらお前がいやでも、わしは桃を出すといってしまったんだ。後悔しても始まらん。お前が天から桃を盗んできたら、役人さまは褒美として沢山のお金をくださるだろう。そしたらその金で将来嫁さんがもらえるぞ」
これを聞いた子供は、仕方なさそうに雲の上からたれてくる縄を手に巻くと、なんと虫である蜘蛛が糸を伝って行くようにするすると上に登り始め、見物人たちがあれよあれよと驚く中を、まもなく空の雲の中に消えてしまった。
こうしてかなりたった。役人や見物人たちは、やっぱり無理だったかとあきらめ、ひそひそと語り合いはじめたとき、不意に天からお椀ほどの大きさの桃が落ちてきたので、待ってましたとばかりに男はこれを受け取った。これに周りから喜びの叫び声がどっとあがった。
そこで男は、この桃を両手で挟むようにもち、落としてはいかんとでも言いそうな顔して役人の元へ持って行った。これを受け取った一番偉そうな役人、しばらく目を細めてみたあと、となりの役人に渡したので、他の役人たちも目を丸くして桃を見つめ、ひそひそ話し始めた。実はこの桃が本物かどうかは、齧ってみないと分からない。みんなの見ている前で、がぶりと噛み付くわけにもいかないので、、一番偉そうな役人は眉をひそめていた。しかし、他の役人はやがてこれは本物だと言い出した。
と、そのとき、それまでまっすぐに天から下がっていた縄が、不意に落ちてきた。これに男はびっくり。そして急に悲しみだした。
「なんということだ。天で誰かがわしのこの縄を断ち切ったぞ。これではわしの息子は、どうやって天から降りてくるのだ!どうしよう!」
これに役人や見物人も驚き、自分たちはなにもできないので、これからどうなることか、必死に見守っている。と、何かが天からドンという音がして地上に落ちてきてた。男がみると、なんとそれは息子の頭であった。これを見た男は泣きながらこの頭を両手でもち、「息子が桃を盗んだときに、天の桃畑の見張りに見つかったんだ」とわめいた。すると今度は一本の足が天から落ちてき、更に体の部分がばらばらになって落ちてきた。これに男は慟哭しながら、息子の遺骸を一つ一つ集め、これらを箱に入れて、驚いて固唾を呑んでいる見物人に言った。
「みなの衆、わしは一人息子との二人暮しですわい。息子はわしについてこれまで方々を回ってきました。今日はここで役人さまの言いつけに従い、天に登って桃を盗みに行きましたが、なんと、こんなことになるとは!!これから息子を手厚く葬ってやります」
こういって男は役人の前まで来た。
「役人さま方、わしの息子はあなた方の言いつけで天に登り、あなた方のために死んでしまいました。役人さま方がもし哀れだと思いなさるのなら、わしが息子を葬りますので、そのためにお金を出してくだされや。そうしてくださるのなら、わしはあなたさまがたを恨むようなことはしません。どうかお願いします」
これを聞いた役人たちは、急に責任を感じたのか、または天に登って死んだ男の息子を哀れんだのか、それとも、これから死んだ息子の亡霊が現れるのを恐れたのか、それぞれ思ったより多くの金を出し合い、この男に渡した。
と、この男、沢山の金が手に入ったのを見て急ににやっと笑い、息子のばらばらの遺骸が入っている箱のふたをコンコンと叩き、「これこれ!息子や、早く出てきな。役人さまがたが沢山の褒美を下さったぞ」と声を掛ける。
これに役人や見物人はまさかと目を見張っていたが、しばらくして箱が空き、やまあらしのような髪の毛を生やしたかの子供が元気に出てきて、役人どもにペコリとお辞儀すると、男と一緒に早足でどこかへ行ってしまったわい。
これを見た役人や見物人はあいた口がふさがらなっかとさ!!はい、はい!
そろそろ、時間のようです。では来週またお会いいたしましょう。
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