「衡山の道士」
衡山という山はとても険しく、多くの峰があり、大木が茂り、獣もたくさんいた。それにこの山に登ったものは迷子になりやすいので、来るものはめったにいなかったという。
時は、唐の長慶年間、ある武芸に長けた若者が、干した食べ物をもち杖を持って、夜に山に入り、獣に食われた人の死骸を跨ぎ、恐ろしい虎を退け、怖いものなしで進んでいった。そして山の上の野原について、どうしたことか数日もそこで寝起きしていた。そのうちに持ってきた食べ物などがなくなったが、若者は山を降りず、空腹と喉の渇きをいやすため、森をぬけて崖に上った。すると足の肉刺(まめ)がつぶれたので、ある岩の下で一休みし、つぶやいた。
「なんということだ。これだけ探しても口に入れられるものが見つからんとは。それにこの山の主はなにをしておるのかのう?」
この声が聞こえたのか、前の崖の上に一人の道士が現れ、ゴザの上に座っている。これをみた若者は、足の痛みも忘れ道士のところにきたが、かの道士は目をつぶったままで動かない。
「これは、これは、この山の主どのでございますか?」
若者は声をかけたが、道士はまったく不動。これに若者はいくらか怒り、「耳が遠いのでござるか?」と聞く。
「実は、数日も腹をすかしておりましてな」と若者が遠慮なくいうと、道士は目を開けて立ち、近くのところを指差し「ここに米と鍋がござる」といい、そこを掘り始めた。そしてこの中に手を入れなされというので、若者が手を入れると、ほんとに袋に入った米と鍋が埋まっていた。そこで若者は近くの滝からきれいな水を汲んで薪を拾い、火打ち石で火をおこして米を炊いて食べ始めた。が、急に「まだ炊きあがっていない」と言って食べるのを止めた。そこで道士が笑った。
「ははは!そのぐらいで止めておきなさい。残りはわたしの分だ」
こう言って道士は残りのご飯を食べてしまった。
「うん、これでよしと。で、あんたはお客人ですので、ご覧に入れるものがある」
「なんでしょう?」
「たいしたものではござらん」
道士はこう言い、ふわっと飛び上がると木の枝に軽々と乗り、そこから石を下に投げ、また猿のように樹にぶらさがったり、鳥のように飛んだりしている。これを見た若者は驚いたが、そのうちに道士の姿が見えなくなった。
そこで若者は、道士はどこ隠れたのかと一生懸命に探したがどうしても見つからない。仕方がないので、山をおりて家に帰った。しかし、それから数ヶ月は腹が減らないし、のども渇かなかったという。
今度は、浦松齢という昔の人が書いた本から「天の桃」です。
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