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「夜半の出迎え」

2009-11-03 10:39:39     cri    


















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 いつのことかわからん。都からはるか離れた小さな村にばあさんと、息子夫婦が暮らしておった。

 このばあさんは、幼いときに親から医術をかなり学んだということで、骨接ぎ、按摩、針灸、それにお産の世話もやり、これまでに一度もしくじったことはないという。ここら一帯の村人たちは何かあるとこのばあさんに頼みに来る。その上、ばあさんは病人からは一文もとらないというから、喜ばれるわけじゃ。ということは、このばあさん一家は、息子の野良仕事と嫁の針仕事、それに庭で飼っている数十羽の鶏に頼って家計を立てていた。

 また、ばあさんは、はやり病で地元の鶏が多くやられても、自分の家の鶏は一羽も死なせたことがないという。鶏は大きなかごに入れて飼っており、息子が編んだものだった。

 ある日、息子は夜になって鳥かごを編み終わり、飯を食ったあと疲れたといって床についたので、ばあさんと嫁も休むことにした。

 と、夜半になって庭で音がしたので、これに息子が目を覚ました。

 「うん?いったい何の音だ?」と息子はこっそり起き出し、上着をはおって庭に出てみると、月の光で表の木の戸が開いている見て不審に思い、さっそく戸を閉めにいった。そして振り返ると、うん?これまで庭の隅においてあった鳥かごがない!

 「あれ?今そこにあったかごが急になくなったぞ?!」と目をこすってみたが、やはりなくなっている。驚いた息子は母を起こしに行った。

 「かあさん!かあさん!大変だ!昨日編んだばかりのと鳥かごがなくなっているよ!」

 「え?ほんとかい!」とばあさんは慌てて庭に出てきたが、確か鳥にかごがない。

 「お前!表の戸はちゃんと閉めたんだろうね」

 「表の戸が開いていたので、それを閉めて庭をみると、閉める前まであったかごが消えたんだよ」

 「ええ?うそじゃないね」

 「うそなんかつかないよ」

 これを聞いたばあさんが難しい顔して立っていると、外から戸を叩く音がしたので息子が今頃誰だと戸を開けた。すると四人のがっちりした男が立っており、そのうしろに人の乗る駕籠がある。息子がびっくりしていると、一人の男が入ってきてばあさんにお辞儀して言う。

 「こんなに遅くお邪魔してお許しくだされ。実は難産している女子がおりまして、困っております。産婆を呼んだもののやはりうまくいかないので、こうして、こんな夜半にばあさまを出迎えに参った次第。どうか、今すぐ来てくだされ」

 「それは大変。手遅れになると、赤子だけでなく、母親までも危ないからね」と正直なばあさんは、いまさっき起こった不思議なことなどかまわず、部屋に入って支度をすると、横で呆然としている息子に、小声で「じゃあ、行ってくるかなね。鳥かごのことは人に言うんじゃないよ」と言い残し、遠慮せずに駕籠に乗ったので、男たちは駕籠を担いで走るように暗闇に中に消えていった。

 こちら息子、親孝行ものだから、母親の言うとおりにしようと仕方なく部屋にはいると、目を覚ました嫁がきく。

 「どうしたの?鳥がごとか、お産だとか?」

 そこでいまさっきのことを話すと「じゃあ。その四人の男が鳥かごを盗んだのじゃないのかえ?」

 「いや!俺が戸を閉めてからかごがなくなったんだ。その間に誰かが塀を飛び越える気配もなかったし・・。それにあの人の乗る駕籠は空っぽみたいだったからな。また鳥かごのことは黙っていろと母さんが言ったぞ」

 「でも・・。じゃあ、お母さんはどこへいったの?その駕籠はどこへ?」

 「そ、そうだな!急なことなので、聞くのを忘れてた」

 「あんた、なんだか心配だよ。今から探しに行きなさいよ。」

 「うん!でも。こんな夜中にどこを探しいくんだ?」といいながら息子は、駕籠が消えた暗闇のほうに向かった。そして一生懸命に走ると、なんと遠くにいくらかの明かりがみえ、それにかすかに映った駕籠が行くのか見えたので、懸命に走り出し、大声で母を呼んだ。

 しかししばらくして駕籠を見失った。で、息子の叫び声が聞こえたのか、通りががりの家から老人が出てきて「何事じゃ?」ときく。そこで息子は足を止めて仔細を話した。

 「なんじゃと?それはおかしいぞ。この近くでお産する女子はおらんしな。そういえば北山にキツネが化けて出ると聞いたが、もしかして・・」

 「ええ!それじゃあ・・」と息子は驚き、また懸命に走り出した。

 さて、こちら、駕籠の中のばあさんだが、少しも怪しむことはなく、早く行かないと大変だということだけが頭にあり、「はやく、はやく」と駕籠の中から男たちを促す。

 こうして駕籠は田舎道をはしり続け、やがて遠くに明かりが見え始めた。

 「おまえさんら、はやくしなされ!」とばあさん。

 しばらくしてある家の前でかごが止まったので、ばあさんは急いで駕籠から降り、家に入っていく。そして産婦のうめき声がする部屋にはいっていくと、そこには産婦が床の上で苦しみ、その横で産婆さんが汗をかきながらおろおろしている。

 「お前さんは、なにをしているんじゃよ!わたしの手伝いをしなさい」とばあさんは産婆さんを促し、さっそく世話をし始めた。

 しかし、どうしたことかうまくいかない。普段ならこのばあさんが来れば、すぐに赤子の産声が聞こえるのだが、今日は様子が違う。こうしてばあさんは必死になり、産婆さんが一生懸命手伝うのだが、それでもうまくいかない。そのうちに産婦の顔色が真っ青になって、叫ぶ声も弱々しくなり、外の部屋でこれを聞いていた屋敷の男たちが慌てだした。そのうちに産婆さんが物を取りに出てきたので、「どうだ?」ときくと、産婆さんは首を横に振るばかり。これに男たちは、暗い顔をしてうなだれるだけ。

 さて、母を追ってきた息子だが、いくら追いかけても前の駕籠が見当たらないので、仕方なくさっきの老人が言ったキツネが化けて出るという北山のほうへ走っていく。しかし、夜中なので道に迷ったのか、どこがどこだかわからなくなり、母のことが心配なのと、化け物が出るのではないかとびくびくし始めながら、人家があるかないか探した。こうしてくたくたになった息子の目に遠くの明かりが見えた。

 「きっと、あそこだ!」と息子は疲れた体を引きずるようにして明かりのほうに歩いていく。やがてかの家が見えてきたので近づいてみると、中から赤子の産声が聞こえたので、安心したのかそこにべったりと座りこみ苦しそうに息をし始めた。

 こちら家の中では赤子が無事に生まれたのでみんな安心しているところ。外の部屋で待っていた男たちは互いに「めでたい、めでたい」と言いながら喜んでいる。そこで元気を取り戻した息子が勝手に入っていくと、赤子の鳴き声がする部屋からなんと母が疲れた顔をして出てきたではないか。

 これをみて息子が叫ぼうと思ったが、それより早く、この家の主らしい男が、ばあさんの前に来て深々と礼をした。そこで息子が「かあさん!おいらだよ。心配だから迎えに来た」というと、この声に家の人たちは驚いたが、これがばあさんの息子だとすぐに悟った。

 こちらばあさん「なんだい?お前。何が心配なんだね」

 「だってよ!」

 このとき、家の主らしい男が言う。

 「これはこれは、息子どのでござったか!さ、ここに腰かけなされ。親思いの息子さんですな」と座るように勧める。

 ばあさんは、そんなことにはかまわず、またかの部屋に入っていき、あと片付けなどを終え、産婆さんにいろいろと言いつけてから息子と共に帰ろうとする。これをみた家の主、少し休んでいくようばあさんに勧めたが、ばあさんはすぐに帰ると言って聞かない。そこで主はばあさんがかなり疲れているのをみて、これ以上止めるのをやめて、他の男たちにばあさんを駕籠に乗せるよう言いつけた。そして準備してあった金をばあさんに渡したが、ばあさんは「わたしゃ、銭なんかこれまで受け取ったことがない」といってこれを拒む。それでも主が受け取ってくれるよう頼むと、ばあさんは怒り出し、これ以上受け取れというなら、歩いてかえるといい、何と駕籠から降りようとする。

 「これはまいった」と家の主は、もう一度礼をしてから言った。

 「ばあさま、それほど言われるのであれば、もう銭はしまいます。で、どうでしょう。実は、今年、うちの大豆が豊作なので、いくらか持って帰り食べてくだされ。いやいや、そんなに多くは差し上げません。少しだけでござる。大豆だけでもお持ち帰りくだされ。さもないとわたしが困ります」

 これにはばあさん、どうにか首を縦に振った。

 「大豆だけなら少しだけ貰ってもいいよ。でも一掴みだけだよ」

 「はいはい、わかりました。一掴みだけお持ち帰りください」

 そこで、主はニコニコ顔で部屋から赤い布の包み持ってきてをばあさんに渡した。ばあさんがそれを開けて見ると、確かに大粒の大豆が一掴み入っている。

 「なんとまあ、出来のよい大豆じゃねえ。きっと野良仕事が上手な人が作ったんだね」とうれしそうに包みを懐にしまいこんだ。

 こうしてばあさんを乗せた駕籠は元来た道を戻り、息子も安心した顔で一緒に帰っていく。ところが駕籠は速く、息子は疲れていたのでもちろん追いつかず、かなり引き離されたので、息子は疲れた体を奮い立たせあとを追った。

 こちら駕籠のなかのばあさん、自分もかなり疲れたので駕籠にゆれながら眠ってしまう。そして気が付いてみると、駕籠は止まっている。ふと見るとかごの両側の窓もない。あたりは真っ暗なので、あれ?と思って駕籠から降りようとして周りを触ってみると、なんと自分は息子が編んだ鳥かごの中にいるではないか。

 「息子や!息子!」とばあさんが叫ぶと、「おかあさん」という声がして、なんと嫁が近くから出てきた。つまり、家についていたのだった。

 「おかあさん、どうして駕籠で帰って来ないのです。あら?これはうちの人がなくした鶏篭ですよ!」

 「あら、ほんとだね?一体どうしただろうね」と二人が不思議がっていると、そこへ息子がハーハー言いながらやってきた。

 「うわー!かあさん、駕籠が速いもんでおいら追いつけなかったよ。あれ?これは庭でなくした鳥かごじゃないか?」

 こうして三人は家に入り、明かりを点けてこれまで起きたことを振り返り話し合っていた。

 「何がなんだかわからないけど、赤子は無事うまれたし、わたしらも無事で帰ってこられたので、どうでもいいわ」ということになったが、不意に嫁が聞く。

 「おかあさん、その家の主とやらに貰った大豆は?」

 「そうそう、すっかり忘れていたよ。粒の大きい大豆だよ」とばあさんが懐から赤い小さな包みを出して開けて見ると、入っているは大豆ではなく、なんとぴかぴか光る金の豆であった。

 「あれまあ!これはいけない。息子や、速くこれを返しにいっといで」とばあさん。

 そこで息子は夜が明けてから、また北山にあるというあの家にいったが、どうしたことかそこには家などはなかった。しかし、ばあさんは人からこんな宝物を貰うのはいやだというので、息子と嫁がその後何回もかの家を探したが見つからない。返す相手が見つからなきゃ、どうにもならないと、ばあさんはやっと返すのを諦めたが、金の豆はそれから箪笥の底にしまわれ、ばあさんもこれまでどおり、銭を取らずに人の病を治し、息子と嫁もこれまでどおり、野良仕事と針仕事を続けて暮らした。そして困った人があれば、ばあさんは人助けにと、かの金の豆を町で崩した小銭を与えたという。こうして息子夫婦にはやがて男の子が産まれ、このばあさん一家四人は幸せに暮らしたという。

 え?あの日の夜半の出来事?あれはばあさんが誰にも漏らすなときつく言うので、息子夫婦以外は知ってる人は少なかったとさ!

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