「黄色い痩せた手」
晋陽の西郊外にお寺があり、障ナ珪という書生が寺のそばに建てられた小屋に住み込んだ。ある日、友達を呼んだ障ナ珪が、みんなと夕餉を楽しんだあと、四方山話にふけっていると、暗くなった窓の外から一本の手がにゅうと入ってきて、指を動かしてから、外に引っ込めた。それも黄色く痩せた手で気持ちが悪い。みんなは怖がったが、障ナ珪だけは恐れた様子はなく、立って窓を大きく開けると、誰かが詩を読む声がする。そこで障ナ珪は、大声で聞いた。
「あんたは誰かね?」
すると答えが来た。
「わしかね。わしはこのあたりに長く住んでいるものじゃ。今夜は、散歩でしてのう。実はお前さんがここに住んでいるときいたので、ついでに寄ったまでのこと。で、お客がおられたので窓の外におったのじゃが、話が面白いので思わず出を出してしまってのう」
これを聞いた障ナ珪は、はじめは不気味に思ったが、もしかしてこれはどこかの仙人ではないかを思い、「そうであれば、わたしの客として中にお入りくだされ」
障ナ珪がこういったので友達らはギョッとしたが、ここは障ナ珪の住まいなので黙って新しい客を迎えた。
入ってきたのは、黄色い肌の痩せた老人で、障ナ珪とその友達らといろいろ話し始めた。。しばらくして老人は席を立った。
「これは、楽しい夜のひと時でござった。また、明日の夜来ますので、よろしくお願い申す」
こういい残し、老人は去っていった。そこで一人の友達が言う。
「障ナ珪どの。あれは、きっと何かが化けたものですぞ」
「わたしもそう思う。あの黄色くて細い手は人間のものではないからのう」
「そう。どうです。明日の夜、またみんなでここに集まり、奴の正体を暴きましょう。そうでないと、ここに住む障ナ珪どのがあぶない」
「そうだ。そうだ。しかし、化け物だったら、わたしらで、やっつけられるかなあ」
「大丈夫。長い縄を用意してしっかり縛り付ければいいでしょう」
「そういうことにしよう」
ということになり、翌日は縄を用意してみんなでかの老人が来るのを待っていた。やがて、度胸をつけるため、みんなで昨夜より多く酒を飲み、同じように四方山話をして夜半が来るのを待った。やがて窓の外で何かの音がしたかと思うと、前の夜のように黄色く痩せた一本の手が窓からにゅっと入ってきた。そこで待ってましたとばかりに、みんなは用意していた縄でその手をぐるぐる巻き、動けないようにした。すると外でかの老人の声がする。
「お前さんたち!何をする」
みんなはこれにかまわず、縄を引っ張る。
「わしが悪いことでもしたというのか!かのお人はどこにおる!!」
みんなはこれを聞いてもなおも縄を引っ張るので、急にぐぐぐぐっという音がして縄が瞬く間に解け、黄色い痩せた手は飛ぶように引っ込むと、外で誰かが逃げる音がした。そこでみんなは外に出てみたが、真っ暗でわからない。
「いかん、逃がしてしまったぞ」
「何とかしないと、仕返しに来るかもしれないぞ」
「どうしよう」
「こうなったら、夜が明けるのをまって探しにいくしかない」
「そうだ。逃げたときに何かを引きずる音がしたから、足跡か何かあるに違いない」
ということになり、みんなは夜が明けると、それぞれ棒や刀を手に、かの老人を探しに出かけた。
案の定、障ナ珪の住まいから何かが逃げたあとが草むらに残っていたので、それを記しにあとを追っていった。こうして一刻も捜し歩いたところにぶどう棚があり、逃げたあとはそこで消えている。
「うん?ここまで逃げてきたんだな。それじゃあ、あの手がないかどうか早く探してみよう。夜になったら大変だ。やっつけるのは昼のうちに限る」
この障ナ珪の言葉に、みんなは探し始めたところ、ぶどう棚の横に、人間の形をした樹があり、その木からかの老人の手にそっくりの黄色い細い枝が生えていた。
「これだ!これに違いない」
「速く焼いてしまおう!さもないと、夜になって仕返しにくるから」
こうしてみんなは、その樹を、根っこごと抜いて、火をくべて焼いてしまった。
さて、それから数日後、障ナ珪を含め数人のものが急に熱を出し、もう少しで死んでしまうほど苦しんだという。
やれやれ!
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