「ばあさんの正体」
時は太暦年間、呂さんという独り者がいて、会稽で役人をしていたが、のちに都に引っ越し、町の角にある永崇里というところに住み着いた。のちにあたらしい友達ができたので、呂さんは、ある日、これら友達を家に招き、飲み食いし始めた。そしてこの晩は、友達が泊まることになり、みんなで後片付けしたあと、そろそろ寝るかと床に就こうとした。と、このとき、一人のばあさんが現れた。
このばあさん、顔や服は白く、背丈は二尺ばかり。ばあさんは部屋の隅っこからでてきたもので、ゆっくり歩く。これを見たみんな、はじめはきょとんとしていたが、そのうちに笑い出した。そこでばあさんがいう。
「あんたたちが会食するのなら、どうしてわたしを呼んでくれないのかね。ほんとにけちな連中だね。
これを聞いた呂さんは、なんだ?このばあさんは?勝手に人の家に入り込んでと怒り出し、ばあさんに出て行けといったので、ばあさんは悲しい顔して部屋の角まで来るとふと姿を消した。そこでみんなは、あのばあさんは何だ?と不思議がっていたが、そのうちに明かりを消して寝てしまった。
次の日の夜、一人でいた呂さんが寝ようとしていると、また、昨夜のばあさんがでてきたが、今度は呂さんを怖がってか近づいてこない。そこで呂さんはまたもばあさんを叱ったところ、ばあさんは姿を消した。
「う潤オん?あのばあさんはきっと化け物に違いない。何とかしないと、わたしが危ない」
こう思った呂さんは、しまっておいた剣を取り出し、枕の下に隠して寝た。それからどのくらいたっただろう。角のほうでまた音がしたので、呂さんが明かりをつけると、かのばあさんがまた現れた。こんどは恐れるようすはなく、呂さんのほうに来たので、いくらか慌てた呂さんは、さっそく枕の下らか剣を取り出し、ばあさんを切った。するとばあさんは、床に飛び上がり、なんと呂さんの胸元を掴もうとしたので、呂さんがばあさんをまた切ったが、ばあさんの姿は消えた。
そこで呂さんが床から降りて剣を構えていると、ばあさんが再び出てきて、呂さんに近寄ったとき、呂さんは体中が冷え込む感じがした。これに驚いた呂さんは、また剣を振るったが、その途端、数人ものばあさんがいっぺんに現れた。そしてなんと体を揺らし始め、これをいくらか震えだした呂さんが見ていると、なんとばあさんたちは背丈が一寸あまりの数十ものばあさんに変わった。驚いた呂さんが眼をこすってみると、これらばあさんたちはまったく同じ姿をしており、部屋中をかけ始めた。恐ろしくなった呂さんは悲鳴を上げそうになった。そこで、小人のばあさんたちが「若いの。今。一人に戻るからね」といい、ふっと白い霧みたいなものが立ったかと思うと、もとの一人のばあさんが目の前に立っていた。そこで呂さんは、「ば、ばあさんは、化け物かい?頼むよ。ここを離れてくれ。さ、さもないと道士をここに呼んで、あんたを退治してもらうから」と勇気を出して言う。
これを聞いたばあさんは笑い出した。
「ひひひひ!そんなに慌てることもないだろう。道士をよんでもいいわい。会いたいものだね。実は今日はあんたを冷やかしに来たのさ。そんなに震えることはないよ。もうそろそろわしも帰るから」
こういってばあさんはまた消えたので、呂さんは気が抜けたようにそこにしゃがみこんでしまった。
さて、朝になり、呂さんはさっそく、友達に昨夜おきたことを話した。これを聞いた一人の友達は「都に田という人がいて、魔よけの術を心得ているという。どうだい?その人に頼んでは?」
ということになり、呂さんとその友達は、その田さんのを訪ね、ことの仔細を話した。
そこで田さんがいう。
「そうでしたか。わしは魔よけが得意でしてな。そんな年寄りの化け物をやっつけるのは、蟻を踏みつけるよりも容易でござる。今晩、あんたの家へいきましょう。そのかわり、お礼を忘れぬように」
こうして田さんは約束どおり、その夜に呂さん家に来た。もちろん、呂さんは横でどうなるかを見守っていた。
やがて、夜半になった。そしてかのばあさんが現れ、田さんに近寄ったところ、田さんが叱った。
「お前はどこの化け物だ!早くどこかへ消え伏せろ!」
これを聞いたばあさんは、なんと知らん顔して行ったり来たりしてから言う。
「あんた誰じゃね?」
こういうと右手を振ったが、途端にその手がゆかに落ち、ばあさんは小人に代わり、床の上に飛び乗った。そしてびっくりしている田さんをにらむと、急に田さんのあいた口の中に飛び込んでいった。これには田さん、びっくり仰天。そして恐ろしくなり、体の中にいるばあさんに声を掛けた。
「ば、ばあさん、わしは死なないだろうね」
「大丈夫だよ。わしはお前さんを殺したりはしないよ」
こういってからばあさんは田さんの口から出てきて呂さんにいう。
「あんた。この私が信じられないからこの人を呼んだんだね。まあいいや。これであんたも金持ちになれるワイ。わしもこれで我慢するか」
こういうとばあさんは、また部屋の角でふと消えてしまった。これを見た田さんは、急に変な声を出して部屋から出て行ってしまった。
そこで見た呂さんは、これは大変なばあさんに出くわしたなあと後悔した。
次の日、昨夜のことを呂さんから聞いた友達は、あのばあさんの正体を知るには部屋のあの隅っこを壊して調べなきゃならないと言い出すので、怖くなっていた呂さん、仕方なく友達と一緒に自分の部屋のばあさんが出てくる隅っこを壊し、ばあさんの正体を探し始めた。すると土の中に瀬戸物の瓶がうまっており、中になんと水銀が詰まっていた。
「これは!?」
「呂さんよ。あのばあさんは水銀が化けたんだよ」
呂さん、これを聞いて倒れ、なんと数日も起き上がれなかったという。やれやれ!どうなってんの?
| ||||
© China Radio International.CRI. All Rights Reserved. 16A Shijingshan Road, Beijing, China. 100040 |