さて、かの居酒屋のオヤジだが、じいさんに客を取られ、店が繁盛しなくなったことを大いに憎んだ。そこで何とかしなくてはと一生懸命頭をひねったが、いい考えが浮かばない。こうしてオヤジは金と酒を用意し、面の皮を厚くして李白を訪ねるしかなかった。つまり、自分の店のために詩を書いてくれと李白に頼むのだ。
こうしてその日、オヤジは用意した金を懐に、上等の酒二樽を店のものに担がせ、李白の住む舟にやってきた。
こちら李白、自分を騙したオヤジが訪ねて来たので、その狙いがわかり、オヤジが金と酒を並べても手を振る。
「だめじゃ。あんたの店の酒は薄すぎて飲めたものじゃない」と言い捨て、さっさと舟に乗り船頭を促したので、舟はオヤジを岸辺において行ってしまった。これにオヤジは慌て「李白さま!李白さま!お待ちくださいな!もっと金を出し、酒も増やしますから!」と舟を追うように走り始めたが、すぐ石に躓いたのか、ドテンとぶっ倒れたわい。
こうしてオヤジの店は客が来なくなったのでまもなくつぶれた。もちろん、じいさんの居酒屋「大白酒家」は繁盛するばかり。それに息子ひとりでは人手が足りないので何人かの若者を手代として雇った。こうして店のたくわえも増え、息子も嫁をもらい、店の近所で家を買ってそこで暮らし始めた。
さて、それから数年後、じいさんはこれまでの苦労のせいか、病にかかってこの世を去った。これに李白は大いに嘆き、その日、息子が持ってきた酒を川に筆を滑らすように流してじいさんを偲び、その日から三日三晩泣き続け、じいさんを深くしのぶ詩を書いたわい。
「紀叟黄泉の裏、還た応に老春を醸すべし 屋台に李白無し、酒を沽りて何人にか与えん」
この詩は、紀じいさんはあの世にいってしまい、またも酒を造っているだろう。しかし、そこには李白はおらず、酒を売るにも誰に飲ませるのかな?という意味らしい。
その後、この川の岸には大小多くの居酒屋ができたが、みな「太白酒家」などの看板を出して詩人李白を偲んだという。
そろそろ時間です。来週またお会いいたしましょう。
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