「そうであったか。実はあの店のオヤジは・・」と李白がことのいきさつを言い始めるとじいさんは遮るようにいう。
「あのような者を相手にしなさいますな。でないとあなた様の人格が汚れますワイ。ことは息子から聞きました。あのような者はどんなやましいこともするでしょうに」
爺さんはこういうと、隅に置いてあった酒瓶を運んできて、酒をお椀に注いで差し出した。
「恩人さま、今日はたっぷりやって下され」
これに李白は大喜び。さっそくお椀を受け取り酒の香りを嗅ぐ。
これを見たじいさん「これからあなた様の酒はわしが引き受けました」というので、李白はにっこりして酒を飲んだ。
「うん!うまい。はらわたまで沁みこむうまさじゃ」と李白はいう。そしてじいさんがつまみを出すのを待たず、酒に飢えていた李白は、続けざまに五杯も飲んでしまったので酔いがまわり、気持ちよくなったことので急に頭が働き、詩を書きたくなった。そこでじいさん、用意していた墨や筆と紙を出した。こうなると李白の本能発揮というもので、外に出て滔滔を流れる川や遠くの景色をじっと眺め、不意に大きくうなずくと、紙にさらさらと詩を一気に書いた。
「天門中断して 楚江開く 碧水東に流れて 北に至って回る
両岸の青山 相対して出で 孤帆一片 日辺より来る」
この詩は、天の門が山を裂いたかのように、その間から川が流れ出てきた。その碧(あお)い水は東から流れ、北に向かって回っている。両岸には青い山々が相対し、一隻の舟が日が昇るほうから来たという意味だそうな。
じいさんは、詩が書かれた紙を両手で持ち、墨が乾くのをまって小屋の壁に貼った。
実は李白が名の知れた詩人だということはここら一帯の人々が知っていたが、出来たばかりの詩を見たことがなく、それにこの地で書いた詩が貼ってあるというので、詩を見に小屋に来る人がいた。それが伝わり、李白の直筆だいって見に来る人が多くなった。それにじいさんはうまい酒を作り、李白さまはわしの作った酒を飲んでこの詩を書いたというので、ついでに酒を飲む人が増えた。もちろんうまい酒は喜ばれた。そこでじいさんは小さな居酒屋を開き、昼も夜も李白が飲んだ酒を売り出した。また、李白が飲む酒は毎日息子に送らせている。そのうちにじいさんは、この居酒屋を、李白の字である大白の二字をとり、李白の居酒屋という意味の「大白酒家」となずけ、それを大きく書いた看板を掲げた。
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