今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は、チベット地方に伝わる昔話を二つご紹介しましょう。先に「賢いタチン」。そのあとは「ロージとゾダン」です。
では「賢いタチン」から。
「賢いタチン」
むかしむかし、タチンという若い男がいて肝っ玉が太く、閻魔さまも怖がらないという。このタチンの隣にロブという男が住んでいて力持ちだが、どうしたことか臆病者だった。
このロブは、毎晩大きな声で金を数え、その声は隣のタチンの耳にいやでも入る。そこでタチンもお返しとして数枚しかない銅銭を何度も鳴らす。これにロブは、タチンにも金があると思い、一目置くことにした。
ある日の夜、ロブが金を数えていると不意に化け物が家に入ってきた。これにロブは肝をつぶす。すると化け物はロブの顔をなでたあとふと消えた。ロブが気を失い、朝になって気が付くと自分の金がなくなっているので、泣き出したあと横になり家に閉じこもっていた。
で、翌日、かの化け物がタチンの家に現れ、それに皮袋を持っていた。化け物はタチンがロブのように肝をつぶすと思っていたが、タチンはなんとにっこり笑い「おう!なんか用かね?」と聞く。これに化け物は苦い顔をしてから「この近所に住むおじさんはもういけない。わしは閻魔さまの使いでおじさんを迎えに来たんだが、この世というものがあまりわからん、お前さん、ちょっと手伝ってくれないか?」という。
「え?手伝い?いいけど、お前さん始めてこの世にきたの?ふーん。でもあのおじさん気の毒だな」とタチンが答えたが、これに化け物はだまっているので、仕方なくついて家を出た。こうしてタチンがぜんぜん怖がらないものだから、化け物は親しみを感じたのか、歩きながら話し始めた。タチンが言う。
「あのおじさんの息を止めるわけだな。おいらは初めてだから、どうやるか教えてくれないか」
「そりゃあ簡単だ。地獄で覚えたんだが、この皮袋の口を鼻穴の下におけば、そいつは息ができなくなり、すぐに震えはじめ目を大きく開ける。そこで皮袋の口を閉めると、そいつは動かなくなり、死ぬというわけさ」
これにタチンは怒りたくなったが、それを隠してわざと驚いた様子をみせた。
「へええ!それはすごいね。おったまげた。でも、死人に息を吹きかえらせる方法はあるのかい?」
「もちろんある。この皮袋の口をあけて、またそいつの鼻穴の下に向けるんだ。すると袋の中の空気が鼻穴から送られる。そうなるとそいつは目を開け、息をし始め、生き返るというわけさ」
これにタチンはうなずき、またわざとばけものを見直す顔していった。
「ということは、あんたは怖いものなしというわけか?」
「いやいや、俺たちは裸麦が苦手でね。一度地獄でへまをやらかし裸麦で軽く叩かれたことがある。それは頭が割れるような痛みを感じるよ」
これにタチンはまたうなずいたあと、何かを恐れている顔をした。
「どうしたんだ?」
「いやね、実は俺たち人間は金と銀が一番怖いのだよ。もし金や銀を頭に当てられると必ず死ぬんだ」
これを聞いた化け物は、何度もうなずいた。
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