~中国における売買目的物のリスク負担についての判例~
【事件の経緯】
A社は外商独資企業である。2007年5月、A社はB社より衣料品原材料を購入し、「A社倉庫において引渡し、同時に代金支払いを行う」という内容の契約を締結した。
引渡しの当日、A社は検品の結果、当該原材料の品質を不合格と認めたため、B社に対して当該原材料の受取拒否を主張した。そこでB社は自発的に値引きを提示しA社に受取りを求めた。しかし具体的な値引き価格は合意に至らなかった。
時間が遅くなり、その日は当該原材料をA社の倉庫にそのまま保管することになったが、あいにく当日の夜は豪雨が降り、A社の倉庫で雨漏りが発生した。これが原因となって原材料の一部に損害が発生した。
このような状況の中、B社は「当該原材料はすでにA社に引渡し済だから、損害部分の原材料の代金をA社が支払うべきだ」と主張した。これに対しA社は「当該原材料は品質上、不合格品であり、且つ一時的に保管したに過ぎないので、原材料の損害部分の負担はB社が負うべきだ」と主張した。
双方は協議したが結論に至らず、B社は裁判所に訴えを提起した。
【判決】
裁判所は、事実と証拠につき調査確認を経て、「売買契約は有効に成立した。但し衣料品の当該原材料が品質上、確かに不合格品であり、且つ値引きにつき双方が最終的に合意したわけではないので、売買契約の引渡しは未だ行われていないというべきである」と認定し、B社の主張を支持しなかった。
【解説】
① 『中華人民共和国契約法』(以下『契約法』という)第142条により「目的物の毀損、滅失のリスクは、目的物の引渡し前は売主が負担し、引渡し後は買主が負担する。但し、法律に別途規定がある場合又は当事者が別途約定した場合はこの限りではない。」と定められている。
当該規定によると、売買の目的物が毀損、滅失した場合のリスクの負担は、通常の場合、目的物の引渡しを境として売主から買主へ移転する。そのため、本件訴訟においては目的物の引渡しがあったかどうかの認定がキーポイントであった。
中国法律上、「目的物の引渡し」とは、一般に、「目的物が、契約内容に従って、約定の時点に、約定の場所で、約定の品質基準を満たした状態で、売主から買主に移転すること」を指す。
本件の場合、契約当日に原材料を指定の倉庫に搬入したとしても、そもそも原材料の品質に瑕疵が存在しているので、引渡しが完了したことにはならない。
② 『契約法』第143条により「目的物の品質が品質要求に符合しないため契約の目的を実現することができない場合、買主は目的物の受取りを拒み、又は契約を解除することができる。買主が目的物の受取りを拒み又は契約を解除する場合、目的物の毀損、滅失のリスクは売主が負担する。」と定められている。
本件の場合、引渡し時にA社が受取を拒否した理由は、当該原材料の品質が約定の基準に合致していなかったからである。本条により、A社は原材料の受取りを拒むことができ、且つ毀損、滅失のリスクはB社が負担すべきである。
③ 『契約法』第374条により「保管期間中に、保管者の不適切な保管のため、保管物が毀損、滅失した場合、保管者は損害賠償の責任を負う。但し、無償保管の場合、保管者が自己に重過失がないことを証明すれば、損害賠償責任を負わない。」と定められている。
本件の場合、A社が原材料を自己の倉庫に保存した行為につき、法律上、A社とB社の間で無償保管契約が成立したものと解釈できる。また、豪雨による雨漏りで原材料の一部が毀損したものの、裁判所は、保管上A社に重大な過失があったとは言えないと認定した。よって、本条の規定によりA社は損害賠償責任を負う必要がない。
【コメント】
中国法律上、売買契約の目的物のリスク(危険負担)と所有権は、通常、目的物が引き渡された時点で買主に移転しますが、以下のような例外もあります。ご参考としていくつか簡単に紹介いたします。
・「契約締結前、目的物をすでに買主が占有している場合、契約の効力発生時は、引渡し時とする」(契約法第140条)
・「買主の原因により目的物を約定の期限内に引渡しできない場合、買主は約定違反の日より目的物の毀損、滅失のリスクを負担しなければならない」(契約法第143条)
・「売主は、運送人に引渡し済みの輸送途中の目的物を売却する場合、当事者が別途約定した場合を除き、毀損、滅失のリスクは契約成立時より買主が負担する。」(契約法第144条)
・「売主が目的物に関する証書及び資料を約定どおりに引渡さない場合、目的物の毀損、滅失のリスクの移転には影響しない」(契約法第147条)
各当事者は、上述に挙げたような法令上の任意規定をうまく利用し、必要に応じて、リスク移転と所有権移転の時点をずらすこともできます。自己のビジネススタイルや目的物の性質に応じ、より有利な方式を選択して約定するとよいでしょう。
契約法を中心として法律上には多くのパターンが用意されていますので、どのような方式を利用するのが最も有利であるか、必要があれば事前に弁護士などの専門家に相談してヒントを得るとよいと思います。
以上、ご参考になれば幸甚です。
以上は上海共同総合法律事務所(日本福庚外国法事務弁護士事務所)の張福剛弁護士(E-mail:fugang.zhang@kyodo-lf.com )により提供されたものです。
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