「なにをいう!陸で暮らすわしらは、海の中で暮らすお前たちとはちがうのだぞ!」
「そ、そうか。じゃあ、それもいいだろう」
「そして三つだ!、そこにある魚を入れる篭があるのがみえるか!」
「ああ。その篭だな」
「その篭だ。三つ目は、わしら漁師の暮らしのために、その篭いっぱいに、毎日、数百篭の魚などをわしら漁師に獲らせるようにすること」
「な、何じゃと!?お前ら漁師はそんな沢山の魚をくうのか?」
「何を言う!わしら漁師には親、妻や兄弟、それに子供がいるんだ!養うのは当たり前だ」
「それでも多すぎるぞ」
「余った魚は町で毎日の暮らしになくてはならないもの取り替えるのだ」
「そうか。しかし、毎日その篭で数百とは、ちと多すぎるぞ」
「なに?いやなら。この印章はいま叩き壊す!」
「まあ、まて!わかった、わかった!仕方がない。その三つの条件どおりにするわい」
「ほんとうだな」
「ああ、うそはつかん」
と竜王は、そのばにいる大軍と共に付いてきた海亀の宰相に、これからは、勝手に風を吹かせたり、荒波を立てたりしないこと、毎月の二日と十六日を引き潮とし、満ち潮のときも、漁師の家まで海水を送らないこと、そしてここら一帯の岸に住む漁師に、毎日数百篭もの魚などを獲らせるようにすることを自分の将兵に言い伝えるよう命じた。
こうして竜王は岸辺に上がり、漁師から印章を受け取ろうとしたが漁師が言う。
「竜王よ。ほんとにわしの言った条件をうけうれるのだな?うそをつくなよ」
「なにをいう。わしはあんたを騙したりはせん」
そこで漁師は少し考えて、なんと印章に彫ってある竜が口に咥えた玉を外し、印章を竜王に渡した。
「何をする?その玉を返してくれ。わしは東海の竜王じゃぞ。約束は必ず守る。わしを信じないのか?」
「信じるも信じないも、これからどうなるかをこの目で見届けなけりゃあ、どうにもならない。もし、竜王の命じたとおりになれば、この玉は必ず返す」
「なんじゃと?」
「それに、この玉がなくとも印章は使えるじゃないか」
「そ、それはそうだが・・」と竜王は玉が抜き取られた印章を手に考えたいたが、まずは印章を取り戻しただけでも幸い、あとで何とかして玉を取り戻さばいいと思い、漁師を睨みつけながら、海の大軍を率いて竜宮城に戻っていった。そして息子を呼び出した。
「父上、なんでございましょう?」
「ばかもん!お前のせいでこんなことになったんじゃぞ」
「わ、わかったおります」
「わかっておれば、何とかしてあの玉を取り戻して来い!」
「は、取り戻してまいります」
ということになり、竜の息子は考えた挙句、これは陸に棲む義兄弟の白い虎に相談しなくてはなるまいと一人で陸にあがり、虎のところへ来た。
「どうした?竜の兄弟」
「いや、虎さんよ。わたしがへまをしたもんだから、大変なことになってな。父上のお仕置きを受けたあと・・・・」と竜の息子はこれまでのいきさつを虎に話し、かの玉を取り戻すため力を貸してくれと頼んだ。虎は普段、この竜の息子からいろいろ貰っているので、いやだとはいえない。そこで二人して何とかかの玉を取り替えそうを頭をひねったが、なかなか言い考えが浮かんでこない。仕方なく、その日の夜にこっそりと様子を見に行くことにした。すると、かの玉を持っている漁師は、昼にやすみ、夜は寝ないでいる。
実は、漁師は竜王の言ったことが信じられず、きっと誰かを遣ってこの玉を取り返しに来るとみていた。それはそうだろう。この玉の光で風や波がおさまるのだ。自分のものであったこんな宝物を人にとられて黙っている竜王ではないことを漁師は知っている。だからこそ、昼間は仲間に岸辺で見張らせ、自分は休み、夜になって自分で玉を守っていたのだ。
これを知った竜の息子と虎はこれでは盗み返すことは無理だと思い、いっそのこと漁師を襲ってかみ殺し、玉を奪い返そうと決めた。そこで、翌日の明け方、竜の息子と虎は、こっそり漁師の家の近くまで忍びより、そこにうずくまって漁師は家の外に出てくるのをじっと待った。やがて漁師は今夜は大丈夫だったと外に出であくびをしているとき、いまだと!竜と虎は漁師に走りより、飛び掛った。こちら漁師は何かがこちらに向かってくる音がしたので、その方をみると竜と虎が襲い掛かってきたのが夜明けなのでわかった。これはいかんととっさに懐にしまっておいたかの玉を取り出し、竜と虎めがけて思い切り投げつけた。すると「ドカーン」というものすごい音がしてあたり一面に白い煙が立ち、なんと竜の方は小さな山となり、虎の方は西に飛んで同じく山となったではないか。また、玉は遠く南の海まで飛んでゆき、小さな島と化してしまった。もちろん、漁師はそのものすごい音で気を失っただけである。
こうして竜が変った山はこの竜が青かったことから青竜山と呼ばれ、虎が変った山は、この虎が白かったので白虎山と呼ばれるようになった。
え?そのあと竜王は漁師との約束をまもったかどうかだって?それは知らない!
そろそろ時間のようです。ではまたお会いいたしましょう。 1 2
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