すると見た狼たちは、吼えるのをやめてそれぞれどこかへいってしまった。こうして二人の役人は冷や汗かきっぱなしで大福を連れ役所に戻り、ことの仔細を県令に報告した。これに県令は驚き、さっそくかの上から来た役人を呼び、ことを話したところ、この役人は、まずは大福を痛めつけずに牢屋に入れておくよう県令に勧めた。
こうして何日かたったある日、この上から来た役人が用があって郊外まで行くと、なんと一匹の狼が片方の靴を咥えてどこからか出てきて、この役人の見えるところに靴を置いてどこかへ行ってしまった。
「うん?何だあの狼は?」とその靴を拾い、これには何かあると思い役所に持ち帰った。そして県令にこの靴を渡し、ことの仔細を話したあと、この靴の持ち主を探すよう県令にいう。そこで県令は数人の部下をやってこの靴の持ち主を探させた。
その数日後、一人の部下が役所にもどり、ある村の叢薪という男が数日前に、二匹の狼に追われ、もう少しで食われるところを何とか逃げ切ったものの、片方の靴を狼にさらわれたと報告してきた。そこで県令はこの叢薪という男に片方をさらわれたという靴をもって役所にこさせた。そして持ってきた靴と狼が置いていった靴とはまったくの一足であることがわかった。そこでこの叢薪をきつく尋問したところ、この男は自分が金ほしさに、かの商人を襲って殺し、金目のものを探すと首飾りと腕輪が出てきたのでそれを持って逃げる途中で、なんと二匹の狼に出くわし、ひどく慌てていたいことから腰につるしておいた首飾りと腕輪を入れた袋を落としてしまい、河に飛び込んで逃げたとを白状した。つまり、奪ったものは狼が持ち帰ったのである。そして大福がありもしない罪をかぶせられたことを知った狼は、首飾りと腕輪は叢薪が持っていたので、ある日、叢薪を待ち伏せして襲い、靴を脱ぎ落としたことから、その靴をかの上から来た役人に拾わせたということもわかった。
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