もちろん大福は自分は悪いことはしていないと泣き叫ぶ。すると、それまで黙って大福の表情を見守っていた上から来た役人が、県令に何か耳打ちした。
すると、県令はしぶい顔をしたあと下役人に、「こやつと一緒に山に入り、その狼とやらを捜しに行け」と命じた。これを聞いて大福はもっともだと思ったが、狼を探しに行けと命じられた二人の下役人は目の色を変えた。が、県令の言いつけだから仕方がない。そこで大福を連れ、かの大福が狼に出会ったところにきてかなり待ったが狼は出てこなかった。しかたなく来た道を戻っていると、なんとかの二匹の狼に出くわした。驚いた下役人が逃げようとするが、縛られている大福が、一匹の狼の頭に包帯がしてあるのを見て、助けたのはこの狼で、首飾りなどをくれたのはもう一匹の狼だと役人を引き止めて必死にいう。しかし、二人の役人は恐ろしくてその場に突っ立ったまま。こちら二匹の狼は大福を覚えていたのか、襲ってはこずにこちらを見ているだけ。そこで大福が狼に一礼していう。
「これは狼どの。あんたの妻の頭の出来物をわたしが治し、お礼として首飾りなどを貰ったけれど、そのためにわたしは罪をかぶされましたぞ。もし、あんたらが証明してくれなければ、私は処刑されあの世行きとなるのでなんとかしてほしい!」
これを聞いたかの二匹の狼、命の恩人である大福が縛られていることに気付いたのか、大福らめがけて突っ走ってきた。これをみた役人はあわてて刀を抜き構えた。こうして双方はにらみあっていたが、そのうちに狼が大きく吼えた。すると遠くから同じく狼の吼える声が聞こえ、なんとあちこちから狼がやってきて
あげくは百匹近くの狼がここに集まった。これに下役人だけでなく、大福すらも震えだした。するとかの二匹の狼が大福に飛び掛り、なんと縛ってある縄を噛みちぎろうとする。これを見た下役人は、大福の縛りを解かないと狼たちにやられると思ったのか、狼をしりぞけ、大福の縛りを解いた。
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