みるとこの狼は雌らしく、なんと頭に大きな出来物ができ、なんと膿が出ているばかりが、蛆虫まで付いていた。これはひどいと大福はさっそく狼の前にしゃがみこみ、医療箱を開けて道具や薬を取り出して蛆虫を殺し、膿をきれいに搾り取り、薬を付け包帯までしたので、痛みが取れたのか、その雌の狼は安心して目をつぶったようだ。これを横で見ていたかの狼は、大福がそばに置いた首飾りや腕輪の入った袋を咥え、また大福に渡して尻尾を振ってくんくん鳴いている。喜んでいるのだろう。この袋の中の物はお礼だと言いたそうなので、大福はこっくり狼にうなずき、洞穴を出た。
「うん。患者は狼だったが、それでも手当したんだからよかった」と思って帰ろうとしたが、来た道がわからない。これを察したのか、狼が先に行くのでこれは自分を帰すための道案内だと思い、大福はそれについていった。やがで自分がこの狼に出くわした山道にたどり着いた。するとそこには何匹ものほかの狼がうろうろしており、大福がやってきたのを見て一斉に襲い掛かろうとした。大福はびっくり仰天。これは助からんと思ったが、そのときかの狼が、牙をむき出し、これら狼を追い払ってくれたので、大福は安心して家に帰ることが出来た。
さて、次の日、大福は狼から貰った首飾りや腕輪を金に換えるため町の質屋に入りものを取り出していると、近くに一人の女と二人の下役人風の男がいて、その女は大福が袋から出した首飾りと腕輪をみて叫んだ。
「それです!それが実家に忘れてきたわたしの首飾りと腕輪です!」
当の大福は、この知らない女が自分が取り出したものを見てこう叫んだものだからびっくり。すると横にいた二人の下役人風の男が、なんと大福を縛り上げ、「おまえか!役所までこい!」といって外に引っ張り出した。
大福は何のことがさっぱりわからず、叫んだ。
「いったいなんです!どうしてわたしを捉えるのです!私は何も悪いことはしていませんよ!」
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