北京
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観光地で時々見かけるものの一つに記念メダルの自動販売機がある。日本、中国問わず、美術館や博物館などにも趣向を凝らした記念メダルが販売されているが、ラサではポタラ宮前の広場と文成公主劇場で発見した。
デザインやテーマはそれぞれチベット文化を感じさせるものばかり。
これは一見すると、恐ろしげな印象があるヤクの頭蓋骨を中心に据えた記念メダル。
ヤクはチベット族にとって昔から生活をともにする存在で、ヤクの死後は頭蓋骨に経典を彫り込み、成仏を祈っていた。また、メダル上部にある「扎西得嘞」はチベット滞在中によく耳にした言葉だ。チベット語で「祝福あれ」という意味で、あえて日本語発音で表記するなら「ジャーシ・デレイ」となる。「祝福」という言葉を聞くと、日本人的には抵抗があるかもしれないが、現地で使われている感覚としては会話の最後に「ありがとう」「さようなら」という気持ちで使っていると解釈するのがわかりやすいと思う。
この仮面は、チベットの伝統劇「藏劇」で使われるものだ。
藏劇の始まりには諸説あるが、8世紀ごろの宗教芸術に起源を持つ歌い語りの芸術とされている。当時、この劇を演じるのは僧侶たちで仮面をつけて舞っていた。
最後は男性と女性がデザインされ、女性の名前である「文成公主」と上部に書かれている。
文成公主は640年にチベット王の元へ嫁いだ唐の太宗の娘。中国の仏教文化をチベットに伝えたことから、チベット仏教の成立に関わる人物だ。また、同時期に当時のチベット王はネパールからも妻を娶り、インド仏教もチベットの地にもたらされた。結果として、インド仏教と中国仏教がチベットで融合し、独自のチベット仏教が形成された。
ラサの取材期間中、ロングランの大型劇が上演されていた。上述の文成公主が唐を離れ、チベットへと嫁ぐまでの苦労の道のりを表現したものだ。野外の会場だったが、突如現れる大きな城や数百人近くのパフォーマー、舞台内を疾走する馬など、ありとあらゆるものの規模感が壮大だった。
何気ない記念メダルだが、そこには訪れた場所の文化や情報が詰まっている。これからは記念メダルの機械を見つけたら、一度立ち止まって見てみてはどうだろうか。現地の文化や歴史が深まるきっかけになるかもしれない。(日本人記者:星)