中国社会に深く根ざすアートフェアを~「アート北京」董夢陽さんに聞く

2021-04-27 19:22  CRI

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聞き手:王小燕

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「アート北京」創始者の董夢陽さん

 中国のアート市場の重要なバロメーターの一つとされる「アート北京博覧会」がメーデー連休に合わせ、4月30日から5月3日にかけて、北京で開催されます。
 「アート北京」は「ローカルからアジア全体を見る」をコアコンセプトに、2006年から毎年北京で開催されるアートフェアです。昨年(2020年)はコロナ禍を受けて開催を見合わせ、今年は2年ぶりの実施となります。事務局の発表では、2年ぶりに開催される今回の博覧会は現代美術、古典、写真、デザイン、パブリックアートの5パートからなり、150軒のギャラリーや団体が出展し、展示面積は2万平方メートルに上ります。
 開幕に先立ち、「アート北京」の創始者で、チーフディレクターを務めている董夢陽さんにインタビューし、新型コロナの世界的大流行の継続を背景に今回の博覧会に寄せる期待や、中国のアートシーンで同フェアが果たす役割などを伺いました。

■コロナ禍をきっかけに考える  心を養うためのアートを社会の隅々に

――まずは、コロナ禍がアート産業にもたらした影響を教えてください。

 感染症は様々な業種に影響を及ぼしていますが、中でも文化産業は生活に必要不可欠ではないものとして、ひときわ大きな影響を受けました。しかし一方で、猛スピードで走り続けていた足にブレーキがかけられたことで、ゆっくりと考える時間が持てるようにもなりました。

 そこで考えたのは、今後の向かうべき道についてです。人間というのは、物質的に豊かになれば、おのずと心の余裕を求めたくなるものです。中国はいま、そんな時代に入ろうとしています。これは一晩で達成できるものではありませんが、確実にそのような方向性に向かっていくと思います。中国には世界の五分の一を占める人口があります。この大きな国の文化的ニーズに目を向ければ、まだまだ大きなポテンシャルがあると私は見ています。

 いま世界の人々が中国市場の開拓に精を出しています。我々は自信を失ってはいけません。私たちこそが中国のマーケットに誰よりも詳しく、ここで一旗挙げることができるはずだと思うようになりました。

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写実的な人物画で知られる忻東旺(1963-2014)回顧展の出展作品 油絵「誠城」1995年

――そうしたじっくり考える作業の中で、どのような収穫がありましたか。

 確かに短期的にみれば、「国内循環」と呼ばれる状況が続くかもしれません。しかし、ここでいう「国内市場」というのは、実のところ欧州よりも面積が広く、人口も多い巨大市場だということを忘れてはなりません。また、国内に注目することで、掘り下げるべき取り組みにも気づけました。

 たとえば、アートをどうローカルに役立てるか、どうすれば地方や農村部の人たちにアートに触れてもらえるか、アートを暮らしの一部にどう取り入れていくか、そういったところで工夫すべきです。そう考えれば視界が開けてきます。これが大きな収穫でした。

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水彩画「タジク族の花嫁」李暁林  2019年

――社会における「アート」の位置づけを再考したのですね。

 社会は進歩し続けています。アートは決して資産家のためのものではありません。中国の農村は豊かになりつつあります。手元に資源があるのならば、それを農村を含む社会の隅々にまで届ける工夫が必要です。そう考えれば、物事はずいぶんシンプルになります。私たちの課題というのは、現代的な手段でより良いサービスをどう提供すればよいのか、ということです。それこそがアートの価値なのです。アートの価値というは、決して性急にお金に変えることではありません。確かにアートで稼ぐことはできます。しかし、それ以上にアートで心を養うべきです。これが今の中国社会に一番必要なものだと思います。

 私が思うに、人々が心からアートを望むようになれば、より平和でより美しいものが求められる、より良い社会になると思います。アートの金銭的価値は決して否定しませんが、それ以上に心を養うことのほうがもっと大事で、決して本末転倒にしてはなりません。

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「フォト北京」「Lost Home-Running」陳家剛 2013年

■若者の成長を実感する15年 世界の言語で中国を表現する時代に

――15年以上にわたって「アート北京」を開催してきて、中国社会の変化を感じますか?

 率直に言いますと、中国はこれまで約200年にわたって戦乱があり、世界に遅れを取る状況が続いていました。そのような歴史的な負い目もあり、中国人にはある種の劣等感が見られます。西洋かぶれというか、西側から評価されたものは良いもので、そうでないものは良いとは言えない、というような風潮があります。それは言い換えれば、素直な気持ちで自分自身を見ることができていないことを意味します。

 40年余りの改革開放を経て、教育が進歩し、国の扉がオープンになり、そうした中で教育を受け、知識を身に着けた人たちは、より自信を持てるようになっています。他人の好き嫌いを気にするよりも、自分自身の思いや心地良さを重んじるようになりました。自信というのは、まずは己を知ることからです。これは社会の進歩だと思います。

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「中国潮」出展作品 于楊「不可戦勝」2020年

 今回のアートフェアには「中国潮」と題した、中国の要素を世界共通の言語で表現するという、留学経験のある若いアーティストたちによる企画展があります。彼らの絵は自信に満ち満ちています。古代中国の真似もしていなければ、西洋の模倣もしていません。自分の中に備蓄された知識に気づき、それを自在に表現したのです。

――海外の目には、中国のアート市場はバブリーな市場に映っているようです。これをどう思いますか。

 確かに懸念すべき点はあります。アート教育が欠如し、ものさしが確立されないままにアートの金銭的価値が先走りすれば、市場の混乱を招きます。こうした状況を解決できるのは「教育」しかないでしょう。中国には、今日ほど富への思いが強い時代はなかったはずです。一代で富を築いた人が大勢現れ、多くの人がそれを真似したいと願っています。そういう意味で、いまの中国は未曾有の歴史的時期にあります。私はそうした中でも、決して本質を忘れてはならず、スピードを落として、何が大事なもので、どうすれば本当の価値を生み出せるかをゆっくり考えるべきだと思います。

 「殊途同帰」(行く道は違えども、最後には同じ所に帰着する)という昔からの言葉があります。この言葉のように、物事というものは必ず本来なるべき姿になるものと、私は信じています。

  アートは人類の共通言語だとよく言われていますが、私はアート自体が共通言語なのではなく、真心と誠実さをベースとする創作が、おのずと世界との意思疎通を実現させるのだと思っています。

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藤田嗣治「玫瑰少女」 1959年

■中国のポテンシャルを信じながらの再出発

――中国のアート市場の今後をどう展望しますか。

いまの中国では、どの業種も膨大な人口ボーナスと関係を持っています。ただアートだけが例外です。それは、「アートは金持ちのためのもの」だという私たちの誤った考えがあったせいです。アートはもっとたくさんの人のためにあるべきです。そういう心構えで取り組めば、より良いブランド、より大きな企業がきっと現れてくるはずです。

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「設計北京」フラワーアレンジメント 林小蕙作品

――まもなく開幕となる今年の「アート北京」の見どころと、ご自身の抱負を教えてください。

 SNSで使うスタンプの展示や若い世代の作品もそうですが、様々なスペシャルプログラムの企画を通して、より多元的で、より時代を反映した作品が展示できるよう心掛けてきました。2年ぶりの開催なので、とにかく多くの皆さんにリラックスした気分でおいでいただき、たくさんのアート作品に触れていただければと思います。

 また、中国では新型コロナの感染が抑えられていますが、世界的にはまだ感染拡大が続いており、不便なことも多々あります。しかし、来年になれば、きっといつものフェアが戻るものと信じています。今回はとにかく、再出発するためのアートフェアです。

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「2021年アート北京」ポスター

【2021芸術北京(ART BEIJING)博覧会】
4月30日(金)  プレビュー・特別先行入場(招待者のみ)
5月1日(土)~3日(月) 一般公開 (11時~19時、最終日は18時まで)当日券は100元/日
会場:全国農業展覧館(1号館・11号館)(北京市朝陽区東三環北路16号)
※詳細は 「芸術北京博覧会」オフィシャルサイトをご参照ください。

(写真提供:芸術北京博覧会)

 

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