「ポストコロナ」の中国経済~対外経済貿易大学・西村友作教授に聞く

2020-05-27 13:27  CRI

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聞き手:王小燕

 新型コロナウイルス感染症の影響で2ヶ月余り延期されていた中国の全人代が、5月22日から北京で開催されています。毎年の開幕会議で行われる、国務院総理による「政府活動報告」は、前年度の経済社会の発展を振り返り、新年度の計画を展望したことで今回も国内外の注目を集めました。新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済に深刻な影を落とした今年、世界各国にとって共通の課題は、感染症の影響を乗り越えて少しでも安定した経済運営を実現させることです。2020年の政府活動報告から、「ポストコロナ」の経済回復に向けた中国政府の姿勢がどう見て取れるか、中国の経済金融系重点大学である対外経済貿易大学で経済学博士を取得後、現在は同大学の教授を務める西村友作さんにマイクを向けました。

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西村友作教授(写真:本人提供)

 

数値目標設定の見送りは成長へのあきらめではない

――2020年の政府活動報告が現在、全人代で審議されている最中です。西村教授は毎年の政府活動報告を必ず生中継でご覧になるそうですが、まずは今年の報告の印象を聞かせてください。

 全般的に印象的なのは、時間が短かったという点です。参加者の多くがマスクをしていて、新型コロナウイルスを意識していました。ただ、時間は短かったものの、内容は非常に濃いもので、私としても多くの学びがありました。

――今年は、経済成長率の数値目標を発表しなかったことが、日本メディアからは「異例」として大々的に取り上げられました。この点をどう捉えていますか。

 経済成長率の数値目標設定の見送りは、1988年以降で初めてです。約30年続いた慣例を取りやめたという意味では、「異例」であることに違いありません。ただ補足したい点は、目標設定による「負の影響」も以前から指摘されていたことです。数字を追い求めるあまり、盲目的な投資によって数字が作られる可能性があるためです。そうした理由から、来年からも目標設定をしないことが当たり前となるかもしれません。

 また、発表を見送ったからといって、経済成長をあきらめたわけではないということも補足します。実際に、李克強首相は政府活動報告の中で、雇用、民生の保障、貧困脱却の目標達成、リスクの防止・解消などに言及していますが、そのすべてが経済成長の支えを必要としています。そこからも、経済成長の必要性が強調されていたように聞こえました。

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第13期全人代第3回会議年次総会で政府活動報告を行なう李克強総理(写真:新華社通信)

 

社会の安定化と弱者へのサポートが重点

―――さて、今年の政府活動報告の内容について、西村教授が特に注目している内容はなんでしょう?

 報告は幅広い内容に及びましたが、その中で私が注目したのは内需拡大戦略、経済発展モデルの転換加速です。新型コロナの世界的な流行によって、外需が急速に冷え込んでいた中で、内需拡大を経済成長の柱に置くのは正しい戦略だと思っています。その内需拡大の主役は地方や農村です。報告の中では、消費回復の施策の一つとして、Eコマースと宅配便の農村への普及を支援し、農村での消費を拡大させるとしています。

 また、有効投資の拡大においては、次世代通信規格5Gや、電気自動車の充電スタンドを含む「新型インフラ」投資を拡大する方針を示しました。この原資として、地方専項債(特別債)を前年比約70%増やし、3.75兆元(約57兆円)発行する見通しとなっています。

 さらに、財政赤字の規模を前年より1兆元増やすと同時に、緊急時の特別措置として、感染症対策特別国債1兆元を発行。この2兆元すべてを地方に回す予定となっています。

新型コロナウイルスの影響は、元々経済基盤の弱かった「地方」や「農村」で大きくなっています。さらなる格差拡大を防ぎ、社会を安定させようという意図が伺えます。

――確かに、これに関連して「企業の安定成長、雇用の確保」に関する措置にも、多くの関心が寄せられています。

 新型コロナウイルスの影響を強く受けているのが中小零細企業です。報告の中でも、減税、料金引き下げ、金融支援など、様々な支援策を示しています。経済活動の基盤となる雇用に関しても、今年は874万人に及ぶ大学新卒者、地方からの出稼ぎ労働者(農民工)、退役軍人、さらには障害者などの就職困難層をサポートする方針が打ち立てられています。

 新型コロナウイルスの影響は、社会的弱者に対してより強く出ています。そこを重点的にサポートする姿勢も、今回の報告の中から伺えたと思います。

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5月23日、第13期全人代第3回会議年次総会開幕の様子(写真:新華社通信)

 

プラス材料は「新経済」 終息後の急回復に期待

――中国の「新経済」(ニューエコノミー、ニュービジネス)を挙げることができると思います。中国ではスマートフォンの電子決済アプリが急速に普及し、それをプラットフォームとして様々なビジネスやサービスが社会全体に大きく広がっています。また近年、経済発展モデルがイノベーション駆動型へと転換されてきたのですが、「新経済」はまさにその成果の一つと言えます。今回の政府活動報告で示された様々な政策は、まさにこの流れを加速させるものです。

 通信を例にしますと、過去には4G の普及によって、我々が想像もしなかったようなサービスが相次いで開発されました。スマートフォンを使って実店舗でストレスなく決済できるのも、バスの中で動画を視聴したり、オンラインゲームを楽しんだりできるのも、歩きながらテレビ電話で会話ができるのも、地図アプリで目的地を探すのも、すべて高速モバイル通信によるものです。

 今回示された新型インフラ整備の強化によって、5Gネットワークが急速かつ広範囲に整備されれば、今後はいままでとさらに異なるビジネス、サービスが生まれ、新たなビジネスエコシステムを形成していくに違いありません。これは今後の中国経済の発展にとって、大きなプラス材料になると思います。

――17年前、中国でSARSが流行した時に、公共交通機関でのリスクに対する人々の懸念から、中国は一気に車社会に突入しました。そして今回の新型コロナウイルスの感染拡大では、「巣ごもり消費」が非常に注目されました。中国では元からデジタル技術の経済面での活用が脚光を浴びていましたが、これを機にますます勢いがつきそうですね。

 中国の『史記』には、「禍福は糾(あざな)える縄の如し」とあります。良いことと悪いことは表裏一体になっているわけです。確かに今回の新型コロナウイルスの影響で、経済はかなりのダメージを受けました。その一方で、デジタル経済を中心とした、インターネット消費などの新しい消費やサービス体系がどんどんと普及しています。これが、今回の禍によるプラスの部分と見ることもできるかと思います。

――今年も残り7ヶ月ほどとなりました。今後の中国経済の動きにおいて、とりわけ、日本の経済成長とも密接にかかわっている部分について、特に留意していることはなんでしょう?

 李克強首相は政府活動報告の中で、「サービス業の開放拡大をめざして、総合的試行を増やす」と述べています。去年12月、李首相は日本の安倍首相と成都で行われた首脳会談でも、サービス業の開放について言及し、安倍首相も「中国の市場開放に積極的に参与していきたい」と応えています。「おもてなし」を得意とする日本のサービス業は世界でもトップレベルにあると思います。今後、サービス業の開放拡大が進めば、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスになることは間違いないと考えています。

 世の中は、新型コロナの問題で世界中の交流が滞っている状態です。収束すると同時に、ため込んだ部分が一気に解放される可能性がありますので、そこにさらに期待していきたいと思っています。

(整理:王小燕、梅田謙)

 

【プロフィール】

西村 友作(にしむら ゆうさく)さん

 対外経済貿易大学 国際経済研究院 教授、日本銀行北京事務所 客員研究員

 2002年より北京在住。
 2010年に対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学で日本人初の専任講師として採用される。同副教授を経て、2018年より教授に。

 専門分野は中国経済・金融。メディアでは主に中国のキャッシュレス、フィンテック、新経済(ニューエコノミー)などを解説。主な著書は『キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影』(文春新書、2019年4月)

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王小燕