北京
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<巻頭言>
2018年5月 北京にて
藤田安彦
「日中学生手話交流」は、2009年「国際交流基金北京日本文化センタ」が、四川大地震の被災地の聾唖学校の慰問を始めて、翌年の南京市の活動に続き、それ以来毎年継続し、当初目標としてきた10回目を迎えることができました。これまで長い間ご支援を頂きました関係者の皆様方に衷心より御礼を申し上げます。
今世界は、偏狭な愛国主義が社会的弱者をあおって、他者を排除し自己中心的な政権運営をする、いわゆるポピュリズムの台頭で民主主義が脅かされつつあります。まさに現代社会の課題となっています。我々はややもすると無意識に社会的弱者を無視しているかも知れません。これからは社会的弱者を排除するのはなく交流して幸せにすることの努力、そのことにより健常者も幸せになる、あえて弱者の“言語”を勉強してその社会に入り、弱者と交流し寄り添うことが必要なのではないでしょうか。 手話を勉強し聾唖者と交流する意義はここにあると思います。
第十回「日中学生手話交流・北京チーム」のリーダは、以前訪れた南京市で5歳の子が、お母さんに「あの人も日本人だから人を殺すの?」というのを聞いてショックを覚えたそうです。それでもあえてこの活動に参加しました。 今回見学した改修後の「南京大虐殺記念館」は、平和の色がより表れるなど、改善の跡が見られましたが、まだ「反日色」が強く残っていました。見学中の中国人の冷たい視線にじっと耐えて留学生たちは見学しました。 記念館では「最近、ここに来る日本人は白髪の老人ばかり、日本の若者は来ません」と言って、留学生が日中友好改善への提案をやさしく聞いてくれるのが何よりの救いでした。 記念館は今後どのように変わっていくのでしょうか。 その後の「老人ホーム」の慰問では、お年寄りに「過去にとらわれるな、日中は永遠に平和だ、未来は君たちに任せたぞ、がんばれ」と言って笑顔で話しかけてくれ、泣きながら抱きあう日本の若者の姿は印象的でした。
日本の留学生は日本と中国が隣どうしで仲良く暮らせるように、日中関係の改善に少しでも貢献したいとの思いでこの活動に参加しました。 どうか暖かく見守っていただきたくお願い申し上げです。
第十回の協賛企業は、特別協賛の三菱商事さまのほか、南京日本商工クラブさま、OMRONさま、東京海上日動火災保険(中国)有限公司さま、TOYOTAさまです。 特に、三菱商事さまには、長年に渡り、多大のご支援を頂きました。 この活動は、三菱商事さまの冠・事業と言っても過言ではありません。 この場をお借りしてご支援に衷心より感謝申し上げます。
この南京には日本企業が進出しています。 「南京日本商工クラブ」を結成して頑張っています。 今回は特別に「共催」として参加し、全面支援を頂きました。 皆様の今後の発展をこころより祈念いたします。
この交流事業は中国では多くのメディアに取り上げられました。中国でのインパクトが大きいかを表しています。 例:新華社、新華報業网、環球時報、人民中国、南京日報、南京テレビ、江蘇教育電視台、南京科教、中国新聞网、中華文化傳媒网、東方网、百度、南京晨報、北京国際放送局CRI、南報网、人民网/日本語版、中華网/新聞中心、中華网/視頻、現代快報、中文国際、新聞中心中江教育网、その他Whenever、Concierge、各社。第十回の活動では、在中国日本大使館のSNS,さらにCRIが「学生募集」、「キックオフ大会」、南京の活動で密着取材を頂き動画が配信されました。
日本では:NHK・WEBニュース、NHK手話ニュース、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、Yahoo.Japan、RecordCnina、Exsiteニュース、の報道各社です・
中国に留学する日本の学生は年々減少しています。 その中で日中関係を改善しようと勇気を奮ってこの活動に参加してくれました。 10回の活動で参加した日本の学生は総勢112名となりました。 現在、日中間には複雑で容易に解決できない課題がたくさんあります。 でもこのまま放置するわけにはいきません。 将来日本と中国がもっと仲良く暮らせるよう、これからの青少年には頑張ってほしいと心より希望します。
「希望」といえば、中国の作家「魯迅」の小説「故郷」を思い出します。 魯迅が1921年1月に発表した短編小説集のひとつで、日本の中学校の教科書に出て来ますが、中国でも中学生の教科書に出てくるのです。 この交流活動が将来「多くの人が歩く太い道」となる事を祈って、この「故郷」の最後の一節を紹介します。
「希望本是无所谓有,无所谓无的。这正如地上的路;其实地上本没有路,走的人多了,也便成了路」
思うに希望とは、もともとあるともいえぬし,無いともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道は無い。歩く人が多くなればそれが道になるのだ。(石川好・訳)
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