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バイオリニスト 西崎崇子さん

2009-05-26 13:20:41     cri    

バタフライラバーズに惹かれて30年
梅蘭芳訪日公演に始まった中国文化との縁

 27日、北京・人民大会堂でバイオリン協奏曲「バタフライラバーズ」(中国語名「梁山伯と祝英台」、略して「梁祝」)初演50周年記念コンサートが開催されます。1959年、上海の作曲家何占豪・陳剛の手がけた作品で、中国では知らない人がいないほどの名曲です。
 中国版ロミオとジュリエットと呼ばれている梁山伯と祝英台の愛を描き、地方劇・越劇のメロディーも取り入れています。日本では、この曲は長野五輪女子フィギュアの陳露選手が使った音楽として親しまれています。
 今、「バタフライラバーズ」は中国を代表する曲として世界各地で演奏されています。この曲の世界化に一役買った奏者に、日本人バイオリニスト西崎崇子さんの名前があります。1978年のファースト・レコーディングからこれまで、世界各地の交響楽団と全部で7回にわたりレコーディングし、中国本土及び東南アジアでの売り上げは全部で300万枚を超えました。
 27日、西崎さんは世界に向けて「バタフライズラバーズ」を紹介した功労者として招請され、6人の中国人奏者とともに人民大会堂のステージに立ちます。
 公演に先立ち、バイオリン協奏曲「バタフライラバーズ」と30年にわたる付き合いについて、西崎さんに話を聞きました。

――バイオリン協奏曲「バタフライラバーズ」と接したきっかけは?

 私は結婚してから、香港で住むようになり、香港の交響楽団と年に4回ほど共演するチャンスがありました。あの頃はいつも、西洋風のコンチェルトを弾いていました。観客もいつも同じような人たちで、地元の若者の姿はなかなか見かけませんでした。

 そんなある日、夫が、「ここは中国人の町だから、中国人の中に入っていかないと。それには、中国の曲を勉強しないと」と言って、「バタフライラバーズ」の楽譜を渡してくれました。

――この曲に対する第一イメージは?

 スコアを見ただけで、明らかに西洋式と違うなと感じました。どうしようかなと思いました。しかし、弾き始めて、すぐ「きれいな曲だ」と感じました。さらにページを進めると、「ドラマチックで、好きだ」と思いました。そういうわけで、1978年にこの曲をレコーディングしました。

――最初に弾いていたとき、まだ「バタフライラバーズ」の言い伝えは知らなかったようですね

 そうでしたね。レコーディングをした翌年、作曲者の一人である陳剛さんが香港を訪れ、私の家に来てくれ、この曲にまつわる物語を教えてくれてました。その時に、初めてストーリーのすべてを理解し、作曲者のこの曲にかけた思いを理解することができました。

――この曲を演奏する前に、様々な準備をしたようですね。

 これは中国の曲なので、何とかもう少し中国の表現をちりばめて演奏したいなと研究をし、京劇や地方劇などを見たり、二胡の練習をするようになりました。

 ――ほかの奏者と持ち味の違った曲にしようと思ったのですね。

 そうですね。年月が経つうちに、ほかの方のレコーディングも出てきたので、それを聞いたり、彼らの演奏会に行くようになりました。中には、スピードや強弱の理解が私と異なった方もいます。しかし、音楽はその人の心で思ったことを表現することなので、曲は人によって違いがあって良いと思います。

――二胡の勉強はいかがでしたか。

 もう楽譜からすべて西洋式と違いますので、まずはスコアを西洋式に書き直して練習しました。あれには困りました(笑)。

 二胡は小さな曲しか弾けませんが、その中でどのように中国風の味を出すか、私なりに考えました。たとえば、二胡の勉強で習ったスライドをバイオリンに応用してみました。押さえている場所は同じですが、指先をちょっと動かすだけで、中国的な音色が出ます。スライドは、もともとの楽譜にそんなにたくさん記されていませんが、私は意図的にたくさん使うようにしてみました。

――中国のお芝居との出会いは?

 京劇は子どもの時に日本で見ていました。1956年、梅蘭芳が訪日した時、父の弟子がウェルカムコンサートを主催し、私はそのコンサートでバイオリンを弾きました。当時撮った写真はいまも大事にとってあります。

 梅蘭芳の本当の姿を知っていますが、ステージに上がると、彼がまるで違う人間になり、体の動きといい、指の動きといい、中国の女性よりも女性らしいです。あまりにも違っていたので、「これは違う、梅蘭芳じゃない」と父に言いましたら、父は「そう思うでしょう。これが芸術だ」と言いました。それでもどうしても信じない私を父はステージの袖につれていってくれました。梅蘭芳が舞台から下がってきた時、私の頭をポンポンと叩いてくれました。これが、私の中国伝統文化との初対面です。

 私は中国と縁が深い人間だと、つくづく思っています。

――この曲を引き続けた理由は?

「バタフライラバーズ」ほど私を魅了した日本のコンチェルトはありません。まずはメロディーのきれいこと。皆さん、声に出して歌っていらっしゃいます。ほんとにきれいなメロディーだなと思っていると、今度は二人が愛を確かめ合っているようなところが出てきて、すごくかわいらしいムードになります。次はスピードが速くなり、女の子が彼に愛していると言うようなことを表現します。ムードは変化に富んでいます。優しくて、ドラマチックな曲で、私は大好きです。これからもまだまだ演奏すると思います。

――これまで、世界各地で「バタフライラバーズ」を演奏してきましたが、回を重ねるにつれ、観客の反応にどのような変化がありましたか。

 私は世界で演奏し始めた頃、まだこの曲は中国の曲としてあまり知られていませんでした。西洋の協奏曲とあまりにも違うので、「安っぽい」という批評があったり、最初の2、3年は、「演奏は素晴らしかったが、曲は理解できない」ということが書かれたりしていました。

しかし、今は様子が全然違います。最近は世界がだんだん理解するようになりました。「これはほんとうにきれいでドラマチックだ」と皆さん言っています。海外でも、若い人がどんどんこの曲を弾くようになりました。

――7回のレコーディングの中、一番思い出に残っているバージョンは?

 7回目のニュージーランド・シンフォニー・オーケストラとの共演は西洋人向けのアレンジメントになっていて、とても西洋的な曲として表現されています。一方、上海交響楽団との共演は、たいへん中国的なムードが出ています。この二つが好きです。

 また、一番最初の私の故郷名古屋でのレコーディングは、今でも心の奥の底に残っています。当時はストーリーも知らず、自分の気持ちだけを表現したレコーディングでした。面白いなと思って心に残っています。

――まもなく始まる公演に寄せる気持ちは?

 とても光栄に思っています。今回は初めのパート、たいへん女性的な部分を弾かせてもらいます。後の男性的なパートは男性の方が弾くことになっています。また、陳剛さんに会えることと、親交を続けてきたこの曲の初演者ユイ麗拿さんを初め、中国のミュージシャンたちとの共演を楽しみにしています。

 【記者のメモ】

 ほっそりした体。力強そうな指。弾力に富んだ響きの良い声。暖かさのにじみでる笑顔。中国風ドレスが良く似合う面長で色白の顔。溢れんばかりのエネルギー。
 これが西崎さんから受けた第一イメージでした。
 当日は、出発地・香港の悪天候の影響で、予定より1時間遅れての北京入りとなりました。夕食の時刻はとっくに過ぎているにもかかわらず、ホテルに到着するやいなや、水一滴も飲まないまま、メディア各社の延々と続くインタビューに根気良く対応していました。
 若さと活力の秘訣は「自分がとても幸せだから」と言い、「健康な体を与えてくれて、ここまで育ててくれた両親」と「いつもサポートしてくれている夫」への感謝の気持ちを繰り返し語っていました。
 結婚後、海外生活を続けている西崎さんは、いまや香港とニュージーランドに家を構えています。「バタフライラバーズ」を弾くうち、蝶々が大好きになったとエピソードを聞かせてくれました。 
 「ニュージーランドには透明な繭を作る蝶々がいて、その蝶々に好かれる木を家の庭にたくさん植えました。もうシーズンになると、庭の中は蝶々でいっぱいです。」
 30年以上にわたる香港での暮らしも楽しんでいるそうです。「自由市場へ行くのが楽しい。市場の方たちは良くCDを買ってきては、サインを頼みます。私は人懐っこいから皆に好かれているようです」。
 こう言いながら、朗らかな笑い声が聞こえました。その笑いは、輝く瞳の奥まで光っているようでした。(王小燕)

【プロフィール】

西崎崇子(にしざき・たかこ)さん

1944年  名古屋生まれ
1948年  父西崎信二の手ほどきでバイオリンを始める
1953年  スズキ・メソードの第一期生となる
1956年  梅蘭芳の訪日公演の歓迎演奏会で演奏、京劇を初めて見る
1961年  桐朋学園高校を卒業し、ジュリアード音楽院に進学し、
     ジョゼフ・フィクスに師事
1974年  ヴィオラの今井信子とモーツァルトの協奏交響曲を演奏して
     ジュリアード・コンチェルト・コンクールで第1位を獲得
1975年  ドイツ人実業家クラウス・ハイマンと結婚し、香港での生活を始める
1978年  名古屋で「バタフライラバーズ」を初めてレコーディング
1987年  夫とともに香港でクラシック音楽系レコードレーベル「ナクソス」を創設
1996年~ フリッツ・クライスラー国際コンクールの審査員
2001年  オーストリア政府からオーストリア共和国功績勲章金章を授与

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