★百発百中
昔、楚の国に、養由基という弓の名人がいました。柳の木から百歩ぐらい離れたところに立って矢を射ると、百発百中で柳の葉の中心を射ることができます。周りの人は皆彼を褒め称えました。
ところが、通りかかった一人が、「このぐらいで褒められるなら、私は彼に矢の射方を教えられる」と言いました。
それを聞いて、養由基は気になって、「皆は私が上手だと言っているのに、あなたはこの私に、矢の射方を教えられるなんて言っている。それなら、私の変わりに柳の葉を射るのはどうかな?」と言いました。
その人は、「私は左腕をまっすぐにして弓を持ち、右腕を曲げて弓を引き、矢を射るなど、技量を教えることはできない。しかし、あなたは、考えたことがあるか?今まで百発百中で柳の葉を射続けてきたが、息を整えることがうまくできていない。後になって疲れて、一発でも当たらなくなれば、これまでの百発百中の成果が無駄になってしまう」と話しました。
「百発百中」、言葉の意味自体はとてもお見事なものですが、この故事の中では、何かを戒めているです。故事の出典は『戦国策』です。策士、蘇厲(それい)が白起(はっき)将軍の攻撃を阻止するために、この百発百中の故事を引用したのです。
蘇厲は戦国時代に政治外交活動を行う策士でした。秦の連戦無敗の将軍、白起が魏の都、大梁(たいりょう)を攻撃すると聞きました。大梁が陥落してしまうと、付近の西周王室は非常に危険な状態になります。
そこで、蘇厲は周王を説得し、白起の攻撃を阻止する任務を得ました。蘇厲は秦へ行き、白起と会うと、先ほど紹介した「百発百中」の故事を持ち出した上で、更にこのように話しました。
「将軍、あなたはすでに韓や趙などの国を打ち負かし、広い土地を得て、大きな手柄を立てました。そして、今、周王室の脇を通って大梁を侵攻しようとしています。しかし、もしこの戦に失敗したら、今まで勝ち続けた努力が無駄になり、名声を傷つけることになります。だから、病気になったことにして、出兵しないほうがよろしいのではないでしょうか」
もしも白起がプライドの高い人なら、それを聞くかもしれませんね。しかし、白起は納得しませんでした。相変わらず軍を率いて魏の国を侵攻し、またも大きな勝利を収め、魏の国の数十の城を占領したとのことです。白起は蘇厲が思ったより、非常に自信がある人なんですね。
「百発百中」、発射した弾丸や矢などがすべて命中すること。或いは、予想した計画や狙いがすべて当たることを表す言葉です。
★百尺竿頭
中国語では、よく"百尺竿頭、更進一歩"、「百尺竿頭に一歩を進む」という形で使われます。百尺の竿の先に達していますが、なおその上に一歩を進もうとします。すでに努力・工夫を尽くしたうえに、さらに尽力することのたとえです。これはある程度の成果を収めた人を激励することに、もってこいの言葉ですね。
実は、これはもともと禅の教えでした。宋の時代に、長沙に景岑(けいしん)という高徳の僧侶がいました。ある日、仏法に関する答弁会で、景岑は、「百尺竿頭に到達し、そこに止まってしまった人は、まだ真の悟りの境地に入っていない。百尺竿頭の先から更に一歩を進めて、十方世界(じっぽうせかい)、つまり全世界で自在に自己を実現できる」と言いました。
仏教は悟りを求めて、修行を重ねる訳ですから、つまり、仏法の修行には頂点がないということですね。いくら努力した結果てっぺんに行き着いたとしても、「これでいい」と、満足してはいけません。何かの奥義を極めるには、更に努力しなければなりません。
この言葉の中で、「百尺」というのは、必ずしもきちんとした百尺の長さではありません。中国語の古語の中で、数字はいつも大まかなものですので、とても長い竹竿と理解してもらえばいいと思います。そもそも、字面の意味から考えると、長い竹竿に這い上がること、つまり、何かの目標を目指して努力する事自体が、命がけの危険なことですね。
成功には危険性が伴う。どんなに強い意志を持つ人でも、たまにはほっと一息をつきたいと思うんですね。しかし、油断して成功の喜びや人の賛美に溺れると、まっ逆さまに落ちてしまい、怪我をするかもしれません。
だから、成功した人はどんどん成功する。出発した時に決めた目標は小さかったかもしれませんが、進むに連れて、その目標はどんどん大きくなります。学校で勉強している学生でも、企業の社長でも、学者でも、登山家でも、どの業界の人でも、努力をやめ、留まることはできません。これって、人間の運命ではないでしょうか!
比較的低い竿でも、非常に高い竿でも、私たちは誰でも竿の先に到達していません。戻ることができません。前へ進むより、落ちてしまうことがよっぽど危険だからです。まあ、しょうがないですので、気軽に進みましょうね。
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