今度は「甕の中のお金」です。
建安のある村人は舟で建渓まで往き来し、柴を町で売って家計を立てていた。ある日、村人が舟を岸に着け、近くの山に登って柴を刈っていると、上のほうから何か小さく平ぺったい丸いものが転がり落ちてきた。
「あれあれ?どうしたことだべ?」とそれを拾ってみると、なんと銭であった。
「うひゃ!うひゃ!これはいい。しかし、銭が何で上から転がり落ちて来るんだ?よし、もう少し登ってみよう」
と、村人は柴刈りをやめて銭を探しながらのぼり始めた。しばらく行くと地面に数十枚の銭が落ちていたものだから必死にそれを拾い、ホクホク顔で山腹まで来ると、そこには大きな木が茂っていた。村人がその木に近づいてみると、なんと木の根元のところに大きな甕が横倒しになって置いてあるではないか。
「おお?こんなところにどうして甕が?」と村人は蓋がしてない甕の中をのぞくと中には銭が詰まっていたではないか。
「うひゃ!うひゃあ!これはすごい。こんなところに大金があるなんて」
と村人は、傾いていた甕の口の両側をつかんで立てると、腰に結び付けてある鎌や縄を放り出し、上着を脱ぐとそれを地面に敷き、なんと500枚ぐらいの銭を甕から取り出して包み、近くに甕の蓋が落ちているのを見てそれを拾い、甕に蓋をした。そして銭を包んで結びつをつけた上着を肩に担ぐと急ぎ足で舟に戻り、さっそく家に帰った。幸い、そのとき周りには人はいなかったそうな。
で、この村人だが、甕の中の銭をすべて自分のものにするため、家に着いた途端、家族の前に持ち帰った銭をみせた。これに家族はびっくり。そこで村人はいう。
「いいか。みんな袋を持ってこれからあの山にのぼり、甕の中のものを全部持ち帰るんだぞ」
もちろん、家族は首を縦に振り、さっそく一家が舟にのり、かの山にきて、村人について大きな木のあるところに登ってきた。しかし、さっきまであった甕がなくなっている。
「ありゃ?どこへいったんだ?さっきはわし一人しかいなかったぞ。誰も見ていたはずがない」
そこでみんなしてそのあたりを探したが、甕はどこにもない。こうして村人と家族はがっかりして帰っていった。
さて、その日の夜、村人は急に熱を出し始め、なかなか寝られなかったが、そのうちに疲れたのか寝てしまい夢を見た。そ夢にはあるじいさまが出てきた。
「おい!お前も欲が深いっやつじゃのう!あの金は主というものがある。ただ、甕が横倒しになっていたので、お前を雇って甕を立て、蓋をさせたまでじゃ。あの500枚の銭はお前が甕を立ててくれた褒美じゃ。それなのにお前はまだ人様の金がもっと欲しいのか!この罰当たりめが!」
これに村人はびっくりして目が覚めたが、熱は数日続き、村人はかなりやせたという。
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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