ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
速いもので、今年もあと残り少なくなり、今日は今年最後の「中国昔話」となってしまいましたね。で、来年はネズミ年ですね。そこでこの時間は、ネズミにまつわるお話を二つご紹介しましょう。
まずは、「太平広記」という本から「帰ってきた息子」です。
「帰ってきた息子」
朱仁は崇山のふもとに住み、野良仕事をして暮らしていた。ある日、五歳になる息子が不意にいなくなったので、朱仁は必死に探したが見つからず、十数年経っても行方が知れず、息子は死んだのか生きているのかもわからなかった。
と、ある夏の日、一人の僧侶が家の前に立った。この僧侶は一人の弟子らしい少年を連れていて、朱仁が見ると、その少年は行方がわからなくなった息子によく似ていたので、二人に家に入ってもらい、お茶などを出した。そして朱仁は聞いた。
「お師匠のつれているこの若いのは、実は十数年前に行方が知れなくなった私たち夫婦の息子によく似ています。なんか、息子が我が家に帰ってきたみたいで・・」
また横にいた妻もその少年を見つめ涙を流している。そして話を聞き終わった僧侶がいう。
「そうでござったか。拙僧はこの崇山の山寺に数十年おりますが、実は十年前にこの子が道端で泣いていたので、いったいどうしたのか聞いても、当時はまだ幼く、ものごともはっきりわからない有り様。それに帰る道も知らないというので、仕方がなく手元において育て、のちに弟子にしたわけでござる」
「で、では、この少年は私らの子ですな」
「そうらしいですな。実はこの弟子はかなり賢く、時には仏の使いではないかと拙僧は思ったりしましてな」
「そうですか?そんなに賢いんですか?」
「いかにも。で、この弟子があんた方の息子であるかどうかは、わかりません。あんたの息子さんには・・」
「へえへえ、息子の背中には黒い大きなあざがありました」
「え?あざが?そうでござるか。では見てくだされ」
こうして少年が上着を脱いだので朱仁と妻が見てみると、確かに背中に大きなあざがあった。
これはもう間違いないと朱仁と妻が「息子や!」を大声を上げ、泣き出した。
そこで僧侶は、少年をこの家に残してどこかへ行ってしまった。こうして朱仁夫婦は、少年と暮らし始め、少年も親孝行者だったので、楽しい日々が始まった。
ところが、数年経って少年が、夜半になると黙って必ず出かけるのに気付いた夫婦は、不思議に思ってわけを聴くと少年は黙って答えない。それにやめろといってもそれが続くので朱仁夫婦はある晩、少年がまた出かけたのを見て、庭の隅に隠れて帰ってくるのを待った。それ満月の夜だったので、あたりの様子は見えた。しばらくすると、なんと一匹の大きなネズミが庭に入ってきた。二人は声を出すところを必死に堪えて見守っていると、なんとそのネズミはふと少年の姿に変わったではないか!これに二人はびっくりして声を出してしまった。これに気がついた少年は振り向き、隅から出てきた夫婦を見つめていたが、しばらくして震えて立っている夫婦に言い出した。
「とうさん、かあさん。これまでかわいがってくれてありがとう。おいらは実は山奥に棲むネズミだよ。お二人の息子は十年前に山で狼に食われたんだ。そこで寂しがっている二人のことを知ったおいらの師匠が、こうしていくらかでも二人を楽しませようと、おいらをここに送ったのさ。正体がばれてしまったからには、ここには居られないや」
これに朱仁がおどおどしていく。
「じゃあ、いってしまうのかい?」
「うん。仕方ないよ」
これに妻が涙流していう
「息子や!お前がネズミでもかまわないから、家にいておくれ」
しかし、少年は首を横にふった。
「だめだよ。かあさん。これがおいらたちの掟なんだ。でも、二人にはそのうちにいいことがあるかもね」
こういって少年は、二人に一礼し、ネズミの姿に戻ってどこかへ行ってしまった。
さて、翌年、朱仁夫婦には思ってもみなかった男の子が生まれたわい。
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